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「切腹」 太平の世に生活に困窮した武士にとっての面目とは

ずいぶんと前に録画してあった「切腹」です。1962年の公開で、カンヌでは審査員特別賞を受賞しています。日本でもいくつかの受賞がありました。キネ旬は3位でした。松竹の製作で、監督は小林正樹の作品になります。名画なので、心して見てみます。

あらすじ
太平の世となった江戸。井伊家の江戸屋敷に、安芸福島家元家臣、津雲半四郎(仲代達矢)と名乗る浪人が訪ねてきます。その用向きは、生活に困窮し武士らしく切腹したいので屋敷の庭先を借りたいというもの。応対した家老の斎藤勘解由(三國連太郎)は、先だって同じようなことを申し出てきた、千々岩求女(石濱朗)の顛末を語り始めました。切腹志願は、その頃食い詰めた武士の間で流行っていたゆすりの手で、厄介払いの為の金銭を目的としたもの。井伊家では世に警鐘を鳴らすためと、切腹に追い込まれて、一度家に帰りたいという求女を慇懃かつ丁重に扱ったうえ、困窮し刀も質に入れてしまった求女を、竹光で本当に切腹させたのでした。

勘解由は先の判断に良心の呵責も感じており、半四郎に思いとどまらせようとしますが、半四郎は動じず、頑ななその態度に勘解由は切腹の準備を命じます。実は半四郎は求女の育ての親であり、また求女は病弱な半四郎の娘(岩下志麻)を妻にもらってくれたのでした。そもそも、求女がここを訪れたのは、病気の妻を抱えて長らく困窮し、あわよくば仕官、さもなくとも薬代を得たかったからでした。半四郎は井伊家の薄情な仕打ちを許すことができなかったのです。切腹の時、半四郎は介錯人に井伊家中の沢潟彦九郎(丹波哲郎)、矢崎隼人(中谷一郎)、川辺右馬介(青木義朗)を順に指名しますが、三名とも病欠でした。半四郎は、勘解由にこの三人は、求女を死に追いやった者であり、半四郎の復讐として事前に果し合いで髷を切り落とされていたのです。三名は髷が生え揃うまで仮病をかたって出仕していないのでした。

勘解由はこれを知ると、井伊家の恥が伝播することを恐れ、半四郎をこの場で打ち取ることを命じます。求女を容赦なく竹光で切腹させ、家臣が不覚にも髷を落とされたことが知られれば、譜代とはいえ幕府よりのお咎めが避けられないことが判っていたのです。数十名の家臣が半四郎に襲い掛かり、戦国の世を生き抜いた達人の半四郎は、多くを返り討ちにします。しかし、多勢に無勢。半四郎は最後には討ち死にしてしまいます。そして、勘解由は髷を堕とされた三名を切腹させ、負傷者には手厚い治療をし、ご公儀には、半四郎は見事切腹したこと、死者はすべてが病死として報告します。勘解由にとっては武士の面目などよりも、藩の存続が最優先であったのです。



切腹

数ある邦画の中でも、その歴史を語る中で必ず出てくる作品の一つ。率直な感想は、その普遍的なテーマと演技の凄さでした。今風に言えば、会社が倒産して路頭に迷い、不況の中で再就職もままならず、困窮にあえぐ者と、安泰な大企業において、会社を守り、無情に建前を通す社員たち。そして、井伊家の家臣たちは、非情に筋を通すという事を超えて、それは筋を通すというよりも、相手の立場の弱さを逆手に取り、見せしめのように浪人を追い詰めるていくところは、積極的な虐めとなって描かれます。弱者に対して、論理を笠に着て、これ見よがしに虐めに出る心理そのものです。

そして、俳優陣の個々の演技が秀逸です。こんな素晴らしい演技は最近の映画ではなかなか見られないなぁと思うほど、強烈なもの。仲代達矢と三國連太郎のやり取りもさることながら、追い詰められる石浜朗や、何にも増して、困窮していく岩下志麻の演技は体中から感情を噴出させるような演技であったと思います。役者の熱演と、演出の見事な相乗効果ではないかと思った次第です。

劇中で、仲代と三國のやり取りにもあるように、テーマは武士道の虚飾をえぐるもの。武士の面目は、武士道精神の中で、自らの行動規範として信奉した者には悲劇が訪れ、三國は常にそれを組織を守る建前に使っていく。災難はいつでも降りかかる。それをいかにやり過ごしていくか。それが家を存続させるために必要な才覚であり、失敗すると明日は浪人として路頭に迷うという世界であったのです。太平の世で過剰となった武士の過酷さからくるもの。高邁にも思える武士道でさえ、解釈するのは人であり、時勢によっていかようにも変化するという厳しい見方をしていると思います。

2020.1.22 自宅にてNHKBS Premiumよりの録画鑑賞
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

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Author:torrent13
映画は見たり見なかったりの時を過ごしてきましたが、現状ベトナム在住で、時間があるので、主にネットで見ています。昔はSF映画と、ミニシアターが好きでしたが、その後は西部劇、そして、最近では邦画や古いハリウッド映画などにも見る範囲を広げてきました。

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