FC2ブログ

「涙のコメディ」 民族間のわだかまりの残るトリエステでの出来事

時折、見つけたら新たな発見を求めて鑑賞する、映画大国ではない国々の映画。久しぶりにスロベニアの映画を見つけたので鑑賞しました。Amazonの配信で、日本では劇場未公開、DVD発売もありません。題名もまぁ、あまりパッとしない邦題がついています。これは原題の直訳の様です。2016年製作のスロベニアの映画です。

あらすじ
田舎町からバスでトリエステにやってきたイダは、介護の仕事で車椅子の老人アルバートの家を訪ねる。家族と別れ独り暮らしを選んだ老人は、足も不自由で性格も偏屈。仕事をこなすイダに冷たい言葉を重ねていくが、いつも頭をよぎるのは別れた家族の姿だった…。



イダ(Marjuta Slamic)はイストリアからバスに乗ってトリエステの街にやってきました。そして車窓の風景を見ながら彼女はこの平和が永遠に続くように願っていました。トリエステで訪ねたアパートは、イダが家政婦の仕事で通っている家。車椅子で一人暮らしの老人アルバート(Ivo Barisic)が住んでいます。アルバートは交通事故で背骨を損傷し歩けなくなったため、その損害賠償でこのアパートを手に入れたようです。そして、鉄道模型で時間をつぶす傍ら、昔の写真を見つけてはその頃のことを思い浮かべていました。

イダが、食事の準備や掃除をしている間、2人はコミュニケーションをとる努力をしますが、会話は長続きせず、偏屈になったアルバートの皮肉っぽい発言で話が途絶えがちです。そして、スロベニア人の彼は他民族を忌み嫌っており、それは害虫という言葉で表現されます。彼はスロベニアの妻子と絶縁し、一人でトリエステに来て暮らしているうちに事故にあったようです。口をついて出る言葉はすべての人に対して冷笑的でした。そんな時、孫娘のソニアが農園で収穫したリンゴを持って訪ねて来ましたが、会わずに追い返してしまいます。

その日はアルバートを風呂に入れる日だったので、服を脱がして湯船に入れた時にイダの携帯がなります。それはイダの父親が倒れたという母親からの電話。その母と話す言葉を聞いていたアルバートは、イダが害虫と忌み嫌うボスニア人であることを知り、湯船の中で罵倒し、気を悪くしたイダはアルバートを湯船に残したまま出ていこうとします。アルバートは懇願し、湯船から出してもらい、イダに非礼を詫び、もう自分にはあなたしかいないと、次回の介護の日の約束をしようとしますが、イダは最後の別れの言葉を残して出ていくのでした。広い部屋には茫然としたアルバートだけが取り残されることになりました…。

涙のコメディ

これは、老人の住むアパートの一室が舞台の静かな会話だけの物語でした。時々意地悪く攻撃的な発言とともに激高するアルバート。終始冷静に対処するイダ。そして、だんだんイダは怒りがたまっていくようです。しかし、イダは激高することはありません。終始、静かに対応します。2人以外には、たまたま現れたソニア。あとは、回想や幻想の中で現れる、アルバートの家族、そしてイダの父の映像。それらは明るい光の中の、思い出の光景として描かれます。アルバートはボスニア人を忌み嫌い、それが元で家族と絶縁し、頑なに一人暮らしをしているようでした。

この地方の歴史的背景が解らないと、この映画は全く理解不能です。トリエステは、ベルリンと同じように鉄のカーテンで分断されたエリア。そして、いち早くユーゴスラビアから分離したスロベニアはEUに加盟。のちにクロアチアも加盟し、旧トリエステ地域は、イタリア、スロベニア、クロアチアに別れたまま、相互の通行は自由な状態になっています。しかし、ユーゴスラビアが分割された後の、20世紀末の民族間の抗争では、いろいろな形で民族浄化が繰り広げられ、あちこちに傷痕を残した状態となっていると思います。それが実体験としてどういうものか知る由もありませんが、この映画に横たわる平和への願いと民族差別がそれを物語っていると言えるでしょう。

アルバートが、イダがボスニア人であることを知った時の激しい拒否反応、そしてイダという話し相手が来なければ全く孤独になってしまうと思い知った時の、アルバートの打って変わった懇願。しかし、イダは、それまでとは態度を変えて、自分の名前はアイダだとはっきりと言い(ボスニア流の呼び方なのでしょうか?)はっきりと別れを宣言し、白い蝶が来ているので気を付けてと言って帰っていきます。笑顔をたたえたポーカーフェイスでした。静かな中でも激しい表現になっていると思いました。残されたアルバートは全くなすすべもありません。ただずしりと重い孤独が残るのみです。静かな映画の中に、排他的な思想への厳しい警告が秘められていると思いました。

実際には、最後の場面は、いろいろな解釈ができそうで、どうなのかよく解りません。白い蝶は幸せを呼ぶのでしょうか、それとも…。

2019.3.30 HCMC自宅にて、Amazon Prime Videoからパソコン鑑賞
スポンサーサイト



テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

コメントの投稿

非公開コメント

はじめまして。

先ほど、Amazonプライムで観ました。

終始、なにかにイラつき毒を吐き続けるアルバートの姿に深い孤独を感じました。

イダは本当に大人で、穏やかに接するのですが…長く続く彼からの罵倒に疲れてしまったようですね。

なんだか考えさせられました。年老いて僻みやすくなり、ついつい心にもない事を言ってしまうのではなく 何かしら生きてきた経験を良い形で生かせる老後でありたいと思いました…。

確かに歴史的背景が全くわからず、少し強引なまでの過去への執着もそこがわかっていないとさっぱりですね😅

海外の作品は邦題がいつもイマイチで、こちらもちょっと…な感じでした。

でも、みて良かったと思えます。

突然すみませんでした、大好きなものでついつい映画の事は長くなってしまいます(笑)

また読ませて頂きますね…✨

ではではまた…。

Re: はじめまして。

ペンギンさん。初めまして。コメントありがとうございました。
登場人物も少ない中で、滋味深い映画だと思いました。
こういった映画大国でない国々の映画を時々見てみると、とても新鮮に思います。

> なんだか考えさせられました。年老いて僻みやすくなり、ついつい心にもない事を言ってしまうのではなく 何かしら生きてきた経験を良い形で生かせる老後でありたいと思いました…。
そうですね。何となく反面教師として、見てしまいます。だんだん年を取ってくると、時々、まずいなと気づくことも…。もしかしたら、気付くことすら無くなってくるかもしれないと思うと、ちょっと怖いですが、これから先、気を付けていかねばと思います。

> 確かに歴史的背景が全くわからず、少し強引なまでの過去への執着もそこがわかっていないとさっぱりですね😅
ついつい途中で、Wikiで調べながら見てしまいます。それがNET鑑賞のいいところでもあり、鑑賞をちょっと中断してしまうのは悪いところ…。

> 海外の作品は邦題がいつもイマイチで、こちらもちょっと…な感じでした。
なかなか難しいですね。直訳だと日本では意味不明になるかもしれないし、思い切り意訳すると、変な方に誘導されたりしますし。この邦題はインパクトが無さすぎというか、日本では意味が伝わりづらいですね。

> 突然すみませんでした、大好きなものでついつい映画の事は長くなってしまいます(笑)
> また読ませて頂きますね…✨

ありがとうございました。気分次第でずいぶん勝手なことを書いている時や、認識不足で変なことを書いていることもあると思いますが、そこはご容赦いただき、今後ともよろしくお願い致します。
プロフィール

torrent13

Author:torrent13
映画は見たり見なかったりの時を過ごしてきましたが、現状ベトナム在住で、時間があるので、主にネットで見ています。昔はSF映画と、ミニシアターが好きでしたが、その後は西部劇、そして、最近では邦画や古いハリウッド映画などにも見る範囲を広げてきました。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR