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「残像」 いい映画はいい!と、断言したくなるような映画

出張に、iPadにダウンロードしての機内鑑賞です。日本に帰った時やっていたんですが、見そびれてしまい心残りになっていた映画です。アンジェイ・ワイダ監督最後の作品。社会主義リアリズムが吹き荒れている時代の芸術家の苦悩を忠実に映像化した作品です。

あらすじ
ポーランドがスターリンにより、東側陣営に組み入れられた時代。アヴァンギャルドなスタイルの画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキ(ボグスワフ・リンダ)は、社会的リアリズムへの転換を拒否。それによって大学から追放され、美術館からも作品が撤去されてしまう。だが彼は、信奉する学生たちの協力を得ながら、自らの主義を貫こうとするが、政府からの圧力は日に日に増していく…。



野外授業を行う、ストゥシェミンスキ教授。片足を失った教授は傾斜を転がりながら降りてきます。その授業で語られる視覚理論は学生たちに評判でしたが、とりわけハンナ(ゾフィア・ヴィフラチュ)はその理論に大変共感しているようでした。アトリエで絵筆を振るう教授の部屋が、一瞬赤く染まります。それは、教授の部屋の外に、大きな赤いスターリンの垂れ幕が下りたからで、教授は邪魔な垂れ幕を窓から切り裂いてしまいます。それが元で連行された教授は、担当官から社会主義政策の指導に従うよう促しますが、教授は受け入れません。

教授のアトリエには、時々娘のニカ(ブロニスワヴァ・ザマホフスカ)が訪ねてきます。彼女は、病気で入院している母と過ごしながら、時々父の様子を見に来ているようでした。アトリエでは娘が学校の劇の練習をしていましたが、それは為政者を褒め称えるもの。教授は複雑な表情で見ています。ある日、教授の授業中に、文化大臣が訪れ、強引に時間をとって講演し、これからは芸術は政治の為にあるべきと説き、社会主義リアリズムを実践するよう要請します。しかし、教授は逆に文化大臣に向かって、芸術の独立性を説き、政治とは無関係だと反論しました。

その日から、教授への迫害が始まりました。大学は解雇され、芸術家の組合からも追放されてしまいます。信奉する学生たちは、学生の展覧会場を破壊され、教授の理論を残そうと、アトリエに集まって口述筆記をしようとしますが、彼らは連行されてしまい、助けてほしければ教授が主張を変えろと脅迫されます。そして、解雇され生活に困っている教授は、宣伝ポスターなどの制作に職を見つけますが、これも密告によって横やりが入り、組合員でないものは雇用してはいけないと理由から解雇。食事も満足にとれない生活の中で、教授自身の体も蝕まれていきました…。

残像

映像に見入ってしまいました。物語がテンポよく進むとかではありません。とにかく、見入ってしまったのです。なかなか稀有な体験です。ストゥシェミンスキ教授はあくまでも物静かであり、芸術家であり、確固とした信念をもって活動に当たり、学生を指導しています。その姿を刻々と描いていく中で、得も言われぬ緊張感が漂い、目が離せなくなります。教授の生活はじわじわと奪われていき、健康も蝕まれていきます。市井の人々は教授に普通に人間的に接していますが、いざ決まり事を運用するということになると、全く妥協がありません。政府のお達しは厳格に守られます。

アバンギャルドから社会主義リアリズムへ。その変革が最も明確に表れたのは、本家のソ連でしょう。ロシアアバンギャルドの時代、1910年から、30年までは、むしろ革命と同調して発展していきました。そして、スターリンの文化革命によって収束し、社会主義リアリズムの時代へと入っていきます。それは、社会主義を称賛し、革命の勝利を誰にもわかるように平易に描き、人民を思想的に固め教育する目的を持ったもの。いわゆる政治的な宣伝の一種で、東欧、中国、北朝鮮へと伝播していきます。芸術家は転向するか、地下に潜るか、亡命するかということになってしまいます。

私にとっては、社会主義リアリズムは、同時代の自己中な現代芸術と比較してわかりやすく、卓越した芸術家によるものは表現の中に、現代的な芸術性は確かに存在するので、プロパガンダや、古風で耳障りの良いだけのものを排除してしまえば、好きな部類に入ります。でも、ロシア・アバンギャルドと、社会主義リアリズムの両方に時代に生きた作家は、やはりアバンギャルド時代の方がはるかに迫力がありますね。プロコフィエフもそうだし、モソロフに至っては、すっかり政府の迫害によって変えられてしまいました。当時の芸術家たちの選択は千差万別だと思います。ショスタコーヴィチのように、ギリギリの線で両立していながら、きっちり自分の芸術を守っていたような人もいますし。

話が脱線してしまいました。アンジェイ・ワイダの最後の作品を見つつ、彼の代表作である、「抵抗三部作」から脈々と続く、気骨に思いをはせ、この映画の冒頭で出てくる視覚と残像の話に、人類の普遍的なものの見方を感じ、それを最後の作品に我々に問いかけてきたのだと理解しました。と偉そうなことを書いても、彼の作品をたくさん見ている訳ではないので、まだ人生が続く限り、勉強していきたいものだと思います。最後に巨匠の手になる映画の迫力に触れ、改めて襟を正すことができたと思いました。
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

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Author:torrent13
映画は見たり見なかったりの時を過ごしてきましたが、現状ベトナム在住で、時間があるので、主にネットで見ています。昔はSF映画と、ミニシアターが好きでしたが、その後は西部劇、そして、最近では邦画や古いハリウッド映画などにも見る範囲を広げてきました。

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