
「モニタリング」 シュールな表現のディストピア映画

Life Guidance (2017)
あらすじ
すべての生活態度が、最適であることを求められ監視社会。大企業のエリート、アレクサンダー(フリッツ・カール)は、妻アンナ(カタリーナ・ローレンツ)と息子フランツ(Nicolas Jarosch)の3人で優雅な生活を送っていました。ある日、ライフガイダンス社のファインマン(フロリアン・タイヒトマイスター)という男が一家を訪ねて来て、アレクサンダーが自宅のソファーで横になっている姿を子供に見せていることを指摘します。アレクサンダーはこれを無視すると、ファインマンは執拗に現れるようになり、アレクサンダーは適応テストを受け監視をやめるよう要請しますが、届いた通知書には、重度な適応障害と指摘されていました。
アレクサンダーは、ひとまず指示に従うことにして訓練に参加。しかし、常につきまとうファインマンが鬱陶しく、ある日、彼はファインマンを尾行し、訪問先の一人暮らしの女性イリス(Petra Morzé)から話を聞きます。そして、ライフガイダンス社の場所を聞き出すと、乗り込んで責任者を訪ねますがかなわず、やむなく退散。その後、イリスを訪ねると、自宅の車庫で亡くなっており、ついに、アレクサンダーはライフガイダンス社へ潜入を決行。録画ディスクが大量に保管された場所へと行きつきました。そこで、イリスと自分の記録を見つけ、そこにはフランツが生まれたばかりの子供を殺害する様子と、それを容認するアンナの様子が記録されていました。アレクサンダーの記憶には一切残されておらず、ライフガイダンス社によって記憶が消されていたのでした。
アレクサンダーはその記録を持って逃走しますが、すぐに捕まり、再び記憶を消されてしまいます。帰宅後、アレクサンダーは居間でライフガイダンスから支給されたノートを発見。そこには、アンナが夫の様子について詳細に記録をつけていたのでした。アレクサンダーは家を飛び出し、下層地域の町へと向かいました。場末の軽食屋で出会った女性は、ライフガイダンスからすでに19回も記憶を消されたと語ります。翌日、会社へ出勤せず、どこへともなく向かっているアレクサンダーは、父の訃報を聞いて葬儀を済ませると、森の中の狩猟クラブに入り込みました。そこでは、会社重役や企業主たちが、統制することはさも当然という具合に話し、アレクサンダーを相手にしません。アレクサンダーは山中を彷徨ううちに、迎えに来ていたファインマンを殴り倒し、再び歩き始めると、迎えに現れていたライフガイダンス社の車に乗り込み自宅へと戻りました。そして、家族と再会し、アンナを抱いて、愛していると淡々と告げるのでした。

アートな映像とアバンギャルドな音楽で静かに進行するディストピアSFでした。説明が非常に少なくて、俳優のわずかな言葉や行動で示されるので、非常に難解でした。それでも、一つ一つの映像が美しくて、かつ不穏な雰囲気を掻き立てるもので、目が離せず集中して見てしまいます。現状の生活に違和感を持った主人公は、突然訪ねてきたライフガイダンスに反抗すると、執拗に監視されるようになり、妻や子供からも監視されていることを知ります。そして、そういう状況から逃れるために、ライフガイダンスの秘密を暴こうと、独自の行動をとり始めますが、監視の目はさらに厳しくなり…。
この社会は、一握りの特権階級がすべてをコントロールする社会。あの狩猟をしていた人たちでしょう。そのシステムは、中流階級には一定の所得と快適な生活を保障し、その代わり逸脱した行動があれば、すぐにライフガイダンスが矯正するシステム。それは、不都合な記憶の消去と洗脳という形です。下層階級にもその仕組みが及んでいるようで、羽目を外しやすい人は消去されることの繰り返しの様です。ある意味、本人はおかしなことをしたら、すぐに無かったことになる仕組みで、なんの罪の意識も残さないことになるのですが、やり過ぎると地位を失い、社会的に抹殺される結果となるのでしょう。
秩序を維持し、さも普通の生活を送らせながら、すべてをコントロールするシステムで、1984みたいな大がかりなプロパガンダもなく、徹底的に管理されます。冷戦時代によくあった思想統制は、宣伝と恐怖で統制した面が大きいでしょう。さらに情報技術が発達した現在では、買い物やその他の消費記録などの、個人のビッグデータで、人の格付けができる時代になっています。こういう形の静かな統制が現実的に可能な時代が近づいているのではないかと、改めて思い起こさせる映画であったと思います。
2020.4.5 HCMC自宅にてAmazonPrimeよりのパソコン鑑賞