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「嵐が丘(1992)」 原作のストーリーを忠実に再現した愛憎劇

エミリー・ブロンテの唯一の小説である嵐が丘は、世界の十大小説とも評される名作文学です。映画化された回数もかなり多く、その激しい内容が人々を引き付けています。今回見たのは、1992年製作のイギリス映画で、監督はピーター・コズミンスキー、主演はジュリエット・ビノシュによるものです。

あらすじ
荒野を行くエミリー・ブロンテ(シンニード・オコナー)が朽ちた屋敷を見て、どんな物語があったのか想像する。そんな彼女の語りで物語は始まります。

ロックウッド氏(Paul Geoffrey)は嵐の中で道に迷い、嵐が丘の屋敷にたどり着きました。主人から宿泊を断られますが、少女に誘われ古びた部屋を与えられます。嵐は吹きすさび、突然窓が割れると、若い女の亡霊が現れるのでした。これは、そこに住む住人たちの物語なのです。

昔、嵐が丘には、主人のアーンショー(ジョン・ウッドヴァイン)、アーンショー夫人、その子供のヒンドリー(ジェレミー・ノーザム)とキャシー(ジュリエット・ビノシュ)が住んでいました。ある日主人は外出先から身寄りのない男児を連れて帰り、彼をヒースクリフ(レイフ・ファインズ)と名づけて自分の子供のように可愛がります。ヒースクリフはキャシーと仲良くなりましたが、アーンショー氏が死ぬとヒンドリーが継ぎ、彼はヒースクリフを下男にし、教育も受けさせず虐げました。それでもヒースクリフとキャシーは仲が良いまま、お互いに恋心を抱きます。ある日2人は近くのリントンの屋敷を覗きに来ていました。リントン(Simon Ward)、リントン夫人、その子供のエドガー(サイモン・シェパード)とイザベラ(ソフィー・ウォード)が住んでいました。キャシーは優雅な暮らしが羨ましく覗いていましたが、家人に見つかって逃げるときに足を怪我してしまい、その家でしばらく世話になると、ヒースクリフを必要としつつも上流に憧れを抱いていたキャシーは、エドガーの求婚を受けてしまい、失意のヒースクリフは姿を消してしまいます。

ヒースクリフは裕福になり、復讐の為戻ってきます。ヒンドリーの妻は子供のヘアトン(ジェイソン・リディングトン)を出産した後亡くなり、嵐が丘では父子とメイドのエレン(ジャネット・マクティア)の生活でした。妻を亡くし荒れた生活を送っていたヒンドリーはヒースクリフとの賭けに応じ、嵐が丘をそっくり奪われてしまいます。嵐が丘の主人となったヒースクリフはヘアトンを下男にすると、エドガーとキャシーの住む屋敷を訪れます。心の中でキャシーへの愛と憎悪がせめぎ合うヒースクリフは、イザベラを篭絡し結婚します。しかし、二人の間に愛はなく、妻を虐待する日々でした。イザベラは嵐が丘を離れ、一人でリントン(ジョナサン・ファース)を出産します。ヒースクリフはキャサリンと密会を続け、愛と憎悪をぶつけ続ける中でキャシーは病に伏し、娘のキャサリン(ジュリエット・ビノシュ二役)を産むと亡くなってしまいました。

リントンの屋敷ではエドガーとキャサリンの生活となり、キャサリンは瑞々しい女性に成長した時、嵐が丘に迷い込むとヒースクリフと出会います。キャシーそっくりに成長したキャサリンを見たヒースクリフは、エドガーへの復讐として、母が亡くなって帰ってきていた病弱のリントンと結婚させ、病弱なリントンとすでに衰弱しているエドガーの死を待ちます。しばらくすると二人とも亡くなり、ヒースクリフはついにエドガーの屋敷と財産をも手に入れることに成功しました。嵐が丘では、ヒースクリフとヘアトン、キャサリンそしてエリンの生活になりましたが、やがてヘアトンとキャサリンの間に愛が芽生え、新しい時代が始まる中で、ヒースクリフはキャシーへの思いに苛まれながら亡くなり、本来の持ち主に戻った嵐が丘にはヘアトンとキャサリンが仲良く駆ける姿があったのでした。



嵐が丘 1992

原作小説の嵐が丘のあらすじを参照する限り、ほぼストーリーのすべて描き出していると思います。内容としては、凄まじいまでの愛憎劇で、愛憎紙一重という言葉では言いきれないくらいの重厚なもの。濃厚なラブストーリーともいえる作品になっていて、ここまでのストーリーと表現はなかなかお目にかかれないものと思いました。坂本龍一の担当した音楽も感動的で、大河ドラマの音楽のような雄弁さは、日本人にとっても身近なもの。何となく伊福部さんの音楽を思い出しながら、四谷怪談みたいな愛憎劇を感じてしまいました。

特異な風景も美しく、その荒涼とした風景が人物像とマッチしていきます。お互いに相手を必要とし愛しあう一方で、憎み合う二人。それぞれ無くてはならない人ではありながら、過去の深い傷から相手に譲れない心。そして、長い二つの家族の物語の中で、全員が二人の愛憎に翻弄されていきます。それによって心や体を病み、死んでいった人々。二人の霊が彷徨っていると言いますが、浮かばれないのは巻き込まれた人たちでしょう。その様子を見続けたエレンは観察者として最も登場人物の姿を理解した人物として描かれていました。

レイフ・ファインズとジュリエット・ビノシュの競演。レイフ・ファインズは猟奇的なまでの凄まじい態度と表情を見せます。対するジュリエット・ビノシュは常に美しく悩み多い姿です。人物構成は一見複雑ですが、映画の展開が解りやすく、すんなり入り込めてはいけました。こういう物語では大切なことだと思います。愛憎の物語を強調しながら、原作に忠実にストーリー全体がよく表現されており、その物語のパワーで惹きつけられ、画面から目が離せない映画でした。

嵐が丘については、1920年代からたくさんの映画化作品がありますが、それぞれにいろいろな工夫がなされていると思います。この激しく技巧的な物語をどう表現しているのか、大変興味が湧いてきます。そして、この映画はストーリーを理解する為にもいいお手本になるのではないかと、現時点では考えています。

2019.12.8 HCMC自宅にてAmazon Primeよりのパソコン鑑賞

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

「アンナ・カレニナ(1948)」 ロシアの鉄道風景がポイントで

アンナ・カレーニナは、トルストイの超巨編小説。分厚さに恐れをなして読んだことがありません。カラマーゾフの兄弟にはチャレンジしましたが、途中で放棄しました(笑)。そんな長い小説でも2時間程度で楽しめれば儲けもの、ということで鑑賞します。何度か映画化されていますが、今回挑戦するのはヴィヴィアン・リーのもの。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督のイギリスの製作で、1948年の映画です。

あらすじ
政府高官カレーニン(ラルフ・リチャードソン)の妻アンナ(ヴィヴィアン・リー)は、兄夫婦の諍いの仲裁のため、モスクワにやって来ると、若き将校ヴロンスキー(キーロン・ムーア)と出逢い、惹かれ合ってしまいます。一方、純朴な地主のリョーヴィン(ナイアル・マクギニス)は、アンナの兄嫁の妹キティ(サリー・アン・ハウズ)に求婚しますが、ヴロンスキーを慕うキティに断られてしまい、リョーヴィンは地元に戻り、熱心に農業経営の改善に取組むことにしました。ところがキティはヴロンスキーに思いが通じず、病を患ってしまいます。

アンナは退屈な夫の待つペテルブルクへ戻り、ヴロンスキーはアンナを追いかけ、深い関係になっていきます。カレーニンは政府高官という世間体もあり、離婚に応じず、アンナがヴロンスキーの子供を出産しても、カレーニンはこれを許したため、ヴロンスキーは絶望し自殺を図りますが、これは成功せず、退役してアンナとともに、外国に駆け落ちしてしまいました。時がたち、アンナとヴロンスキーは帰国しましたが、社交界からは締め出されてしまいます。離婚の話も、一人息子を渡すのを恐れるアンナの事情もあり、なかなか進まず、やがて、自らの境遇を嘆くアンナと、領地に戻って経営に熱中するヴロンスキーはすれ違い始めたのでした。

ヴロンスキーの愛情さえ疑うようになってしまったアンナは、ついに列車に身を投げ、生きる目的を失ったヴロンスキーは、義勇軍を編成して戦地に赴き、そして、リョーヴィンはキティと結婚し、領地で幸せな家庭を築いていたのでした。



アンナ・カレニナ(1948)

トルストイの傑作長編小説の映画化であるのですが、冒頭書いた通りで残念ながら読んでいません。というわけで、とりあえずは、あらすじを頭に入れて鑑賞しました。偉大な文芸作品でもあるので、そこここに重要な訴えかけるポイントがあるとは思うのですが、映画を見ている限りは、今一つつかみきれませんでした。やはり原作を読んだ方がいいのかと思ったのですが、考えただけでも大変そうです。

アンナの性格についても、よくわかりませんでしたが、仕切るタイプで、かつかなり場当たり的な感じがしました。もっと不倫に至るまでの気持ちの動きが欲しいです。意に添わぬ結婚と、その相手が堅物ということはよくわかりますが、さりとてそれだけではここまでに至らないような気がしました。そうすると本人の性格の問題か?ということになりますが…。それに小説には、単なる道ならぬ恋というだけでなく、人生観のようなものが重要視されているのではと思うのですが、どうも不倫物語が前面に出て、深みが今一つという感じがしました。

ということで、気に入ったのはロシアの鉄道情景。最初に登場する雪の中の列車は、大陸的な大きな車体というよりは、機関車も客車も小ぶりに見えました。これは時代かもしれません。そして、客車に貼り付いた雪が、ケーキにまぶした砂糖のようで、列車全体が砂糖菓子かと思ったほどです。クリン駅の整備員など、なかなか面白く、いろいろな暗示が展開にも上手くはまっていたと思います。あとは、衣装やセットが豪華で目を引きました。

この作品は何度も映画化されており、本国のロシアでも数回。超有名俳優を起用した作品では、グレタ・ガルボが2回、ソフィー・マルソー、キーラ・ナイトレイ、そしてこのヴィヴィアン・リー、などなど。昔の作品は、この長大な作品を商業的・娯楽的に上手く見せるために、ストーリー展開を中心に解りやすく作っているかもしれませんので、むしろ、過去の作品の上に成り立つ最近の作品を見たほうが、解釈も現代的で、逆にいろいろと人生観などが織り込まれているのではと想像します。現時点で見てみるすれば、そちらの方がしっくりフィットするのではないかなと思いました。

2019..7.7 HCMC自宅にてAmazon Primeよりのパソコン鑑賞

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「チップス先生さようなら」 チップスの人徳と戦時下の学校

風と共に去りぬが席捲した1939年のアカデミー賞。圧倒的なパワーの中でも、それ以外のいくつかの作品が各賞に名を連ねています。この作品もその一つで、ロバート・ドーナットが、風と共に去りぬのクラーク・ゲーブルを抑えて、主演男優賞に輝きました。ヒルトンの小説に基づくこの作品は、サム・ウッド監督により、1939年に製作されました。

あらすじ
83歳になったチッピング先生(ロバート・ドーナット)は、長年教師を務め、すでに退職したパブリックスクールの始業式に来賓として出席しました。そして、学校の近くの下宿先に戻ると、夕暮れ時の暖炉の前で、過ぎ去りし日々の想い出にふけるのでした。

25歳のチッピングは、新任教師としてこの学校に着任しました。初日から生徒達の悪ふざけの洗礼を受けた先生は、校長先生からもプレッシャーをかけられ、教室内に厳格な規律を導入して対応したところ、エースがクリケットの対外試合に出られなくなってしまい、憎まれる存在になってしまいます。
時が過ぎ、中年になったチッピングは、ドイツ語教師マックス(ポール・ヘンリード)からオーストリアでの徒歩旅行を強引に誘われ、登山中に出会ったキャサリン・エリス(グリア・ガースン)という女性に恋心を抱き、キャサリンの帰国の見送りの時に、彼女にプロポーズ。二人は帰国後結婚することになりました。キャサリンは生徒達を家に毎週のように招待し、先生を「チップス」と呼んで、真面目一辺倒の夫の殻を破ります。授業中に冗談をもいう様になったチップスに、生徒は親しみを持ち始めるようになりました。キャサリンはいつの日かチップスは校長にもなれると信じていましたが、残念なことに、彼女は出産時に母子ともども亡くなってしまいました。

ある年、新任のラルストン校長(オースティン・トレヴァー)がスクールの「近代化」を目指し、古い考えの老教師チップスに退職を勧告しますが、彼は伝統を失うべきでないと主張し、理事会もチップスを支持。「近代化」を主張するラルストン校長を改心させ、第一次世界大戦の時期まで現役教師を続けます。そして、いったん引退したチップスですが、戦争の長期化による教員不足から終戦までということで校長に再就任。爆撃の中で授業を行いながら、戦争で死亡した名誉戦死者名簿にある、かつての同僚や教え子たちの名前を毎週日曜日に読み上げる日々が続きました。そして、1918年戦争が終結し、再び退職しました。

1933年、死の床にあるチップスは、見舞いに来た人物が身寄りのない彼を哀れんでいるのを耳にして、「何千人もの子供たちがみんな私の息子なんだ」と返答するのでした。



チップス先生さようなら

ジェームズ・ヒルトンの小説として有名な物語です。小説の成立は1934年。そして、映画は1939年にロバート・ドーナット主演で製作され、この年のオスカー主演男優賞に輝きました。1939年は、風と共に去りぬの年で、受賞の前評判は低かったようですが、見事ロバート・ドーナットが賞を射止めました。そして、中盤で登場するグリア・ガーソンもこれが映画初出演作品でした。そんな記念すべき作品を、かつて親しんだ新潮文庫のイメージを思い出しながら見始めました。

ロバート・ドーナットが、一人で希望に燃えた新人時代、結婚のエピソードが中心の中年時代、そして退職前後の老後と、一人で3つの時代を演じ分けます。とは言っても中年時代と老後は、両方とも髭を生やしているので、見た目にそれほど大きな違いは無いのですが、そこは演技の差で際立たせているという感じでした。チップス先生は真面目で人情のある立派な先生で、その雰囲気が良く出ています。生徒たちに愛されている先生。人徳というものがにじみ出ますが、それをグレア・ガーソンが発見し、見初めたということです。

終盤は、戦地に赴く教え子や元同僚、そして次々と入る訃報とチップス先生の対応が描かれます。チップス先生が読み上げる訃報から、戦場を描かずとも戦争の不条理さが強く表現されます。そして何代にもわたってチップス先生の教え子となった家族たち。それを誇らしげに語る先生。教師冥利に尽きる一生を送ったチップス先生の晩年です。こういった、末期に一生を誇りをもって穏やかに振り返る映画にはとても弱いので、大変感動してしまいました。そして、学校を描いた映画はいろいろありますが、難しいことを語らずとも、やはり学校ってみんなの思い出の場所なんだなと感じました。

2019.8.24 HCMC自宅にてAmazon Prime よりのパソコン鑑賞

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「ミス・ポター」 レニーと、ピーターラビットと、湖水地方

レ二ー・ゼルウィガーお目当てで買っておいたDVDですが、ちょっと硬そうな内容かなということで、手がついていませんでした。いつまでもそのままという訳にもいかず、ついに手に取ってみましたという訳です。2006年の作品で、クリス・ヌーナンが監督しました。受賞もいくつかあるようですが、ゴールデングローブ賞はノミネートとなっていますね。

あらすじ
まだ、封建的時代のロンドンで、上流階級の32歳の独身女性、ビアトリクス・ポター(レニー・ゼルウィガー)は、絵本作家になることを考えていました。それは幼い時、湖水地方での動物と親しんだ体験を基にした物語でした。売り込み歩いていた彼女は、ついに出版を引き受ける会社を見つけ、作品に惚れこんだノーマン・ウォーン(ユアン・マクレガー)の熱意もあって、ピーターラビットのお話しは、ベストセラーとなります。ポターは、独身を謳歌するノーマンの姉ミリー(エミリー・ワトソン)とも親友になり、ノーマン自身とも惹かれ合っていきました。

ところが、女性が世の中で活躍するのも世間の目が冷たい時代で、二人の仲も家柄の違いから、両親から反対されます。口もきかなくなったポターに、父ルパート(ビル・パターソン)は、秋が来ても気持ちが変わらなかったら、二人の結婚を認めると約束し、夏の間にポターは湖水地方に滞在することにしました。しかしノーマンが急死。ポターは悲しみの中で、湖水地方に一人居を移し、そこで幼なじみの弁護士ウィリアム・ヒーリス(ロイド・オーウェン)と再会。ベストセラー作家で裕福になっていた彼女は、湖水地方の景観と暮らしを開発から守るため、売りに出た農地を次々と買い取っていきました。そして、ウィリアムと結婚し、残りの人生を湖水地方に捧げるのでした。



ミス・ポター

レニーはラブコメなど楽しい映画が多いのですが、今回は伝記映画、それもピーターラビットの作者であるミス・ポターを描いたものです。硬そうな話かなと思ったので、観ずにここまで来ましたが、DVD自体はかなり前に買ってありました。ストーリーは、ミス・ポターの生涯を追っていったもので、出版に至る経緯をイギリスの上流階級の未婚女性の立ち位置と絡めながら描き出していました。

やはり、レニーのファンであることは自覚してますので、この映画はレニーが主役として、ほとんどの場面に登場するので幸せな映画です。上流階級のお嬢様から、田舎のオバサン?まで、いろんなスタイルを見せてくれるので、なかなか楽しめました。そもそもこの映画は、映像がとても美しかったです。湖水地方の風景など、イギリスの田園風景が大変美しく撮影されていました。

レニー以外では、ノーマンの姉のミリー役のエミリー・ワトソンが好演だと思います。あとは、ミス・ウィギンのマテロック・ギブスが面白いというか、大変滑稽な役どころであり、演技でした。 さて、レニーの新作のジュディはすでにアメリカでは公開されていますが、来年3月には日本公開もされるようです。2016年のブリジット・ジョーンズ以来ですから、4年ぶり。その間2作が未公開になってしまいました。今度は、どんな顔なのか楽しみだったりします。少なくともミス・ポターの時とは大分違うはずですから…。

2019.10.6 HCMC自宅にてDVDをパソコン鑑賞

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「蝿男の呪い」 冒頭の優雅で衝撃的な映像に魅了されます

「蠅男の恐怖」といえば、1958年に製作された、名高いホラー映画の一つ。クローネンバーグのフライとしてもリメイクされました。この映画は、その最初の蝿男シリーズの第三作にあたる作品ということになります。とは言っても、私自身蝿男関連の映画は何も見ていないですけどね…。1965年、ドン・シャープ監督による作品です。

あらすじ
下着姿の女性(キャロル・グレイ)が優雅に窓を破って精神病院から逃走するところからこの映画は始まります。車で通りかかったマーティン(ジョージ・ベイカー)は彼女を拾い、天涯孤独という彼女を自分の宿泊するホテルに連れ帰りました。マーティンは自宅に電話し、新装置が間もなく手に入ることを告げ、それはロンドンにいる父(ブライアン・ドンレビー)と兄(マイケル・グラハム)にも伝えられます。装置とは、彼らが三世代にわたって開発してきた物質転送装置。ロンドンで窮地に陥った父を救うため、兄弟は装置を稼働させ、無事父をケベックに移送しました。そして、父はマーティンが森で連れ帰った女性パットと結婚しているのを知ったのでした。

行方不明の女性パットを探す精神病院の経営者と警察がマーティンを訪ねてきますが、マーティンは警察に結婚証明書を見せ、自分が身元引受人になると彼らに話します。一方、訪問者を見て家の中に隠れてしまったパットは、施錠された部屋の並ぶ棟を見つけ、その中に爛れた顔の奇妙な男を見てしまいます。驚きますがそこにマーティンが現れ、実験動物だと聞かされます。警察はマーティンの一家をよく知る男と面談、マーティンの祖父は物質転送装置を開発し、自ら実験台になった時、混入した蝿と同化し蝿男となったことや、恢復を試みたものの、完全に分離できず、マーティンもその父親も薬を投与し続けなければ、急速に老化していくことを教えられました。そして、マーティンの妻と2人の助手の3人が行方知れずになっていることを聞き出しました。

パットは、度々奇怪な人物を見るようになりますが、マーティンからは悪夢を見たのだと言われ慰められます。秘密が露見することを恐れた父は3人の不具になってしまった実験台を処分しようとし、まず2人の元助手をロンドンに転送。しかし受け取ったロンドンの兄アルバートは、結合した実験体を見て驚き、斧を構えました。パットはマーティンに事実をを追求し、科学の為の犠牲と力説するマーティンに愕然とします。そして、マーティンは元妻や父も次々と転送、気を失っていたパットを転送しようとしたところで、マーティンの薬が切れ急速に老化が始まりました。パットは装置から逃げ出し、一方、ロンドンではアルバートがすでに斧で装置を破壊してしまっていたので、送られてきた父たちは再現されませんでした。そして、マーティンは急速に老化して朽ち果てていったのでした。



蝿男の呪い

58年版蠅男シリーズの第3作、ということにはなりますが、むしろ後日談を扱ったスピンアウト作品といった方がいいのかもしれません。蠅男は一瞬写真にのみ登場しました。

この作品の雰囲気はかなり気に入りました。古今あまり見ないような素晴らしい冒頭の映像は、かなりのサービスシーンでもあります。下着姿の女性が精神病院の窓を割って飛び出して疾走するシーン。下着がいささか古めかしいということは差し置いても、なかなかインパクトのある掴みです。それも優雅なピアノコンツェルト風の音楽に乗って登場します。窓ガラスが一度割されてから、スローモーションで、もう一回破片が内側から大量に放り出されるように見えるのが一興。そして、その破片の飛び散るのも美しく見えたりします。

ストーリーは比較的ゆったりと進み、激しい起伏は無く、音楽の影響もあって優雅に進む感じです。1965年という製作年もありますが、白黒映像もなかなか美しいと思いました。ラストも違和感なく決まっていて、全体的に無理なくまとまっているなと思いました。その映画は、基本は蠅男を題材にしたホラーを装ってはいますが、実際は物質転送装置を題材にしたマッドサイエンティストものの、SFサスペンスといった方がいいと思います。登場人物の中では、いい味を出している助手夫婦のタイさんとワンさんは、続けて読むと台湾ですね。

監督のドン・シャープは、ハマー・フィルムで数々の古典的ホラー映画を撮った名匠。この雰囲気を味わいながら、他に絶対面白い作品が沢山あると思い、興味が湧いてきました。

2019.9.15 HCMC自宅にてパソコン鑑賞

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「イエスタデイ」 偉大なビートルズの伝説とラブコメディ

新作映画を原語での鑑賞です。イエスタディは、ビートルズの音楽とコメディが楽しめる作品。こちらでは、2019.9.20の公開でした。日本でも10.11公開という事で、比較的公開日が近い設定になっています。ちょっと人気の映画にもなる予感が…。ダニー・ボイル監督による作品で、製作国はイギリスになります。

あらすじ(最後までネタバレしていますので注意!)
ジャック・マリク(ヒメーシュ・パテル)は、イギリスの小さな海辺の町に住むミュージシャン。スーパーで働く傍ら、幼なじみのエリー(リリー・ジェームズ)に支えられて活動していますが、鳴かず飛ばずでした。自分の能力に限界を感じていたある日、世界規模の大停電が発生。交通事故にあったジャックが目を覚ますと、そこはザ・ビートルズの存在が無い世界でした。

ジャックの歌うイエスタデイに感動したエリーは、ジャックとデモテープを録音。地元のテレビへの出演を経て、ポップスターのエド・シーラン(エド・シーラン)に招待され、彼のモスクワ公演の前座として登場します。そして、ロサンゼルスでシーランのエージェント、デブラ・ハマー(ケイト・マッキノン)と契約し、トップスターへの道を進んで行きました。一方、ジャックが疎遠になって寂しいエリーは、アルバムの楽曲のインスピレーションを得るためにリパプールに行くジャックに同行。2人は飲み明かしますが、ホテルでジャックに、一夜だけの関係には興味がないと拒絶。翌日ジャックはアメリカに帰るエリーを追いかけ、やっと駅でエリーを見つけました。そこで、エリーはジャックの成功を祝福するとともに、有名人になったジャックはすでに遠い存在となってしまったことを告白します。

レコード会社は、デビューアルバムの準備を進め、コンサートでアルバムを発表する計画になりました。ところが、 舞台裏で2人のジャックの曲を知るファンが近づき、盗用であることを伝えるとともに、これらの曲を有名にしてくれたことに感謝されます。そして2人は、今も生きて老境に差し掛かっているジョン・レノンのいる場所を伝え、ジャックは会いに行くことにしました。ジョン・レノンはジャックに、妻と生涯幸せに暮らしたことを伝え、ジャックに自分が愛する人を追い、常に真実を語るよう勧めました。

ジャックはスタジアムにおけるコンサートで、詰めかけた大勢の観衆に対し、音楽の盗用と、エリーを愛していることを告白。アルバムも無料でネットにアップし、レコードリリースを妨害。そして、ジャックとエリーは結婚し、彼は故郷の音楽教師になったのでした。



イエスタデイ

英語での鑑賞。ストーリーが面白そうだったので、だいたいのあらすじを頭に入れて見に行きました。ラブコメ+パラレルワールド的ファンタジー+音楽劇ということで、いろいろな要素が盛りだくさんでした。この世界は、ビートルズがいなかったという訳ではないのですね。エンドロールでは、Hey Judeをフルに効けて満足です。大音量でこの曲をじっくり聞くいい機会でした。

ヒメーシュ・パテルは風采の上がらない主人公。それを、リリー・ジェームズが明るくしっかりフォローしているという形。リリー・ジェイムズの雰囲気が良かったです。最近は大活躍です。一方で、ケイト・マッキノンが強烈。画面に大きく映る顔を見ながら、ジム・キャリーを思い浮かべてしまいました。あとは、ノンクレジットでアナ・デ・アルマスが出ているという事でしたので見ていましたら、しっかりと出ていました。 エド・シーランにはなじみが無いのですが、Hip Hopのフィーチャリングネタのジョークもありますね。

ジョン・レノンに会うシーンは拍手喝采です。私は決してビートルズに親しんだ世代ではないのですが、それでも感慨深く見ていました。ビートルズを知っている世界から来た者にとって、この邂逅は畏怖以外の何物でもないのではないでしょうか。かくして、ジャックはビートルズとコカ・コーラのない世界で生きていくことになりました。逆にあちらにしかない物もきっとあるのでしょう…。

2019.9.27 HCMC CGV Vincom Đồng Khởi にて

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「間諜」 1937年製作、ヴィヴィアン・リー初期のスパイ映画

ヴィヴィアン・リーの初期の作品で、「風と共に去りぬ(1939)」より前の作品になります。ヴィヴィアン・リーの演技は複雑な性格の女性を迫真の演技で見せるようなイメージがあるのですが、まだこれは大女優になる以前で、ただただ彼女の美しさが体験できます。1937年ヴィクター・サヴィル監督によるイギリスでの作品で、題名の通りスパイ映画です。

あらすじ

ストックホルムで衣装店を営むマドレーヌ(ヴィヴィアン・リー)は、頻繁にパリで新衣裳を買い付け、ストックホルムに戻ると「伯爵夫人」の許に持参していました。実は、「伯爵夫人」邸はドイツ諜報部の司令部で、フランスの協力者からの連合軍の機密情報が衣装に織り込まれていたのでした。マドレーヌはストックホルムでは、病気休暇中のドイツ将校マルイッツ(コンラート・ファイト)と時々晩餐を共にするうちに、マルイッツはマドレーヌに結婚を申し込むに至り、一方で、イギリス諜報部員のカーター(アンソニー・ブッシェル)もマドレーヌのことを調査しつつ、彼女に恋心を抱いていたのでした。

ところが、マドレーヌの情報に基づき進軍したドイツ軍は、連合軍に裏をかかれ敗北を喫すると、ドイツ側はマドレーヌに、協力者と接触し正しい情報を得るようにパリに向かわせます。彼女はフランスに着くと直ちに逮捕され護送されますが、実はマドレーヌは連合軍側のスパイであり、ドイツ軍に偽の情報を流していたのでした。引退したいと申し出るマドレーヌですが、ドイツ軍のスパイ網の把握のために再びストックホルムに向かうように命じられ、再びストックホルムに戻ると、マルイッツと接触しますが、英国スパイのカーターからマルイッツこそがドイツの諜報部長であることを知らされ、マルイッツにも彼女が連合軍のスパイであることが発覚してしまいます。

マルイッツは、マドレーヌの衣装店を襲い拉致を試みますが、カーターの機転とカーターの報告を受けたスウェーデンの警察本部の出動で彼女を保護し、スウェーデン船で護送。一方マルイッツは潜水艦に乗り込みんで追跡、スウェーデン船を停めてマドレーヌを逮捕しようとしますが、そこにイギリスのQシップが出現、ドイツ潜水艦を撃沈したため、マルイッツは捕虜となりイギリス艦に移されたのでした。



間諜

原題は「Dark Journey」、第一次大戦末期を舞台に、ヴィヴィアン・リーをヒロインとしたスパイ映画でした。何より、ヴィヴィアン・リーの美貌と、いつ正体が暴かれてしまうかという緊張感が見どころでした。スパイ映画のご多分にもれず、設定が複雑になりがちなので、前半は筋を追っていくのに努力を要しましたが、盛り上がってからは緊張感が高まっていきます。そして、虚々実々が絡み合い、二転三転のラストに、まさにスパイ映画の醍醐味を楽しむことができました。

主役のマルイッツ男爵とマドレーヌが、出会い愛し合うというストーリーですが、そもそも最初からマルイッツ男爵が怪しすぎなのです。マルイッツ役は、コンラート・ファイトで、あのカリガリ博士の怪人チェザーレ。ますます怪しさが募ります。という訳で、コンラート・ファイトがマドレーヌに近寄り口説きますが、当然素直に見ることができず、どこまで本心か解らないという2人の会話を見ながら、スリルを味わうことになってしまう訳です。そして、ラストに向けて双方組織の総力戦に繋がっていくあたりは、一気に緊迫していく見どころでした。

最後は、Uボート対Qシップの対戦が見られます。といってもQシップは小さな偽装船なので、軍備としてはUボートと格が違いますが、これもイギリス軍の知恵が最新鋭兵器のUボートを圧倒するというところが見もの。Qシップを描いた映画を見るのは初めてで、国旗を入れ替えるなどして、一気に武装化していく姿が興味深かったです。このQシップの存在がドイツ軍の戦術に影響を与え、結果として第一次大戦でのアメリカ参戦のよう遠因の一つとなっているとも言われ、ある意味スパイ映画とも良くマッチした存在で、いかにもイギリスらしいとも思いました。

2019.6.30 HCMC自宅にてAmazon Primeよりのパソコン鑑賞

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「エクスタシー・オブ・ザ・デッド」悩めるティーンとゾンビ

特に、何を見たいというわけでも無く。Amazonから選んだウオッチリストからランダムで選んだ感じで視聴です。たぶん超B級ゾンビ映画だと思います。なんとか・オブ・デッドというのもゾンビ映画の邦題のお約束。2016年製作。原題は、Ibiza Undead、若しくは、Zombie Spring Breakers (USA new title) です。

あらすじ
ゾンビの感染が拡大する中、ティーンエージャーのグループがリゾート地イビザ島に向かう。そこは、ゾンビに汚染されていない島だったはずだが、ゾンビを見世物にしようとしたクラブのオーナーの影響で、島はゾンビ地獄と化してしまった…。



イビザ島は、若者が集まるリゾートの島でした。島にあるクラブの経営者カール(マット・キング)は、ゾンビを移送しクラブのアトラクションとして利用していました。そんな島にやってきたのは、3人組の少年アレックス(ジョーダン・コールソン)、アズ(Homer Todiwala) 、ジム(エド・カー)、そしてアレックスの元カノのエリー(カーラ・テオボルド)とに姉のリズ(エミリー・アタック)と友人のザラ(Algina Lipskis)たちでした。勿論目的はナンパで楽しい一夜を過ごすことです。そして、少年たちは客引きのマリア(Marcia Do Vales)の誘いでクラブに向かい、女子たちはレストランでのボーイハントに成功します。

クラブでは、ゾンビを使ったグロいショーの最中に、アズの飲ました酒のおかげでゾンビが狂暴化し、クラブは阿鼻叫喚の地獄と化して、客はほぼゾンビ化。一方エリーはナンパした男と良い感じになりますが、別荘がゾンビに襲われ男がゾンビ化し始めます。リズもプールの中でゾンビと戦い、そこは何とか撃退していました。そして、なんとか家に帰り着いた少年たちと共に、ゾンビ化したエリーの男を処置、リズとジムはベッドを共にします。しかし、リズもプールでゾンビと戦った影響で翌朝ゾンビ化して発見され、これはザラが処置し、彼らは島を脱出しつつ、クルーザーを求めて海岸に移動します。

ゾンビを倒しながら海岸についた5人+合流してクルーザーへの手引きするマリアですが、ジムはゾンビ化する前のリズと一夜を共にしたため、いずれゾンビ化するから自分は島に残ると言い出し脱落。しかし、ジムは多少見栄を張ったようで、セックスまでしておらず、キスまでだったのでゾンビ化の心配はなかったのですが、それに気づいた時にはもう船は出た後でした。クルーザーに着いた5人は、キーを持っている人間を待ち構えていたカールに殺されそうになりますが、カールは誤って自爆。そして、5人は無事島を脱出できるということになったはず…。

エクスタシー・オブ・ザ・デッド

出だしからいかにもB級感漂う映画。映像もそれほど凝っている訳ではなく、物語はどんどん進んでいきました。キャラがそれぞれ面白いのですが、やはりデブのジムが一番ではないかと思います。ジャイアンみたいに仕切っているのですが、下ネタ連発でいかにも遊んでいるぞと見せつつ、実は童貞でリズともできなっかったという、見栄っ張りです。同じく、リズも似た感じで、遊んでいるように見せかけているのですが、実は奥手で悩んでいたりする…。そんなティーンエージャーのほろ苦いところが隠し味だったりします。

しかし、グロいシーンが見せ場のゾンビ映画。ゾンビを見世物にするカールはかなり酷いことをしているようで、ゾンビを舞台に上げて、美女がチェンソーで腕を切断するショーとか、なるほどそういうのもありかもねとは思いますが、やりすぎ感もあり。ゾンビの人権はどうなっているんだと言いたいところですが、そんなものは無い??あとは、勧誘女のマリアのキャラも立っていました。こうでもないと、カールとは働けないということでしょう。

そういう訳で、キャラが立った登場人物に愛着がわき、ゾンビの表情も色々凝っていて見どころも多く、逆に普通の性格の人物はあまり面白くないという映画で、ネタもそこそこ回収していきますし、まずまず文句はありません。映像が安っぽいのですが、まぁそれは仕方がないでしょう。出だしは入っていきにくいのですが、見始めるとついつい引き込まれて最後まで見てしまうという、面白いB級ゾンビでした。あと、ラストは余計かも…。

この映画、IMDbのユーザー評価、ムチャクチャ悪いです。3.3点で、酷評の嵐(笑)。広い心で見ましょう…。

2019.5.9 HCMC自宅にて、Amazon Prime よりパソコン鑑賞

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

「嗤う分身」 ドストエフスキー × レトロな近未来画像

ドストエフスキーの「二重人格」を原作としたサスペンスということで、どんなものが飛び出してくるのかと興味津々で鑑賞しました。つまり、ロシア文学のプロットと近代的な映像という組み合わせがどんな感じになるものかという事で、結構自分にとって刺激的なのです。2013年のイギリス映画になります。

あらすじ
厳しい管理社会で会社勤めをしている、気弱で目立たない男のサイモンは、コピー係のハナを想い、日々望遠鏡でハナの部屋を覗く毎日だった。ところが、ある日ハナの部屋の上階からの飛び降り自殺を目撃、その日からサイモンと全く瓜二つのジェームズが出現。社交的で何につけても要領良いジェームズは次第にサイモンの存在すら奪っていく…。



サイモン・ジェームズ(ジェシー・アイゼンバーグ)は、弱気で目立たない男でした。2人しか乗っていない電車内で席を譲らされ、荷物の搬入に邪魔されて電車からなかなか降りられず、結局出勤にも支障が出る始末。サイモンの住む世界は厳しい管理社会になっており、会社は「大佐」に支配され、従業員は個性のないコマとして扱われています。コピー係のハナ(ミア・ワシコウスカ)に思いを寄せており、毎日窓から望遠鏡でハナの部屋を見るのが日課でした。ある晩、ハナの部屋の上階から男が飛び降りるのを目撃します。警察の聴取に立ち会った彼は、もう少し位置がずれていたらネットに引っかかって助かったのだがと知らされました。その男は、ハナに付きまとっていたようで、前の晩ハナが目的を問い詰めたところ自殺してしまったという事でした。

その事件の後、会社期待の新人として入社してきたジェームズ・サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ:2役)は、背格好も服装もサイモンの全くのコピーでした。周囲の同僚はそれを全く気に留めない様子ですが、サイモンは一時激しく動揺します、ジェームズはサイモンのコピーながらも、正反対の性格。要領がよく社交的で、押しも強く、瞬く間に会社になじんでいきます。サイモンは当初ジェームズの助けを借りながら、なんとかハナとの関係を進展させようとしていましたが、やがてジェームズに仕事の功績もハナもすべて奪われてしまい、ついには自身の存在が会社のデータから消えてなくなってしまいました。

会社から出されて家に帰ると、母の訃報が届いていました。慌てて葬儀の場に駆け付けたサイモンは、そこにジェームズがいるのを見つけます。葬儀の場にまで自分に成りすましているジェームズに切れたサイモンは、ジェームズに殴りかかります。ところが、殴った効果が自分に帰ってくることから、ジェームズも自分の一部だと悟りました。サイモンは家に帰ると、すでに寝ていたジェームズを固定。ジェームズを消すため、先の自殺者の飛び降りた位置から、微妙にずらせて自殺を敢行。ネットにかかり怪我を追いましたが一命をとりとめたジェームズは、病院に運ばれます。気が付くとベットの脇に大佐とハナがいました。サイモンは大佐に君は特別な人だと言われるのでした。

嗤う分身

この映画は、好きです。好きだなぁと思う映画は時々現れますが、いろいろと回想するにつけだんだん良く思えてきて、大好きな部類に入っていく。そんな映画の一つでした。まず雰囲気が素晴らしい。レトロかつ近未来的な映像風景でまず心が反応します。雰囲気は、1984年のようなディストピア。そして、ジェシー・アイゼンバーグの妙にハマった名演技。ミア・ワシコウスカの微妙な雰囲気も素晴らしい。見るのはイノセント・ガーデン以来ですが、なかなかいい雰囲気の女優さんです。そして、なによりストーリー展開がなかなか凝っていると思いました。

ストーリーを見て再構築すると、たぶんこの会社の中で、元々サイモンとジェームズが交互に出現していたものと思われます。周りから見たジェームズへの無関心や、奇妙な態度をとる守衛の行動、意外と進んで行くハナとの関係など、微妙な動きから見て取れます。しかし、サイモンの立場から見た映像のみで構成される前半部からは、見ている方はそれと判りません。それがある時からジェームズが分離し、サイモンの目にジェームズとして見えるようになってしまう。そんな状況で悲喜劇が展開していきます。

その仕掛けをオブラートに包むためにも、管理社会の一種異様な情景が一役買っているようです。こういう社会の雰囲気なので、見ている方は仕掛けに気づきづらい。うまく隠されていきます。最後に皆同じ人間という、一般大衆向けのプロパガンダから、そこから抜け出し特別な人になることでこの映画は幕を閉じる。ドストエフスキーの原作も、プロットを拝借した以上に、そういった階級社会へのアイロニーもしっかり取り入れて完結させました。映像や雰囲気にプラスして、いろいろな仕掛けやそれをうまく見せていることなど、いろいろと細かく充実していて、見た後まで楽しめる大変楽しい作品でした。

2019.6.1 HCMC自宅にて、Amazon Primeからのパソコン鑑賞

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「ジンジャーの朝」 少女から大人への時間の体験と映像美

「さよなら、わたしが愛した世界」という、何やら長い副題が邦題にはついていますが、そこは割愛。原題は、「Ginger & Rosa」、つまり「ジンジャーとローザ」という映画です。休日の朝、落ち着いた感じで見ていました。2012年のイギリス映画です。

あらすじ
冷戦時代のロンドン。ジンジャーとローザは同じ日に生まれた仲のいい友達で、ずっと一緒に育ってきた、キューバ危機で世の中がざわつく中で、青春を謳歌する2人であったが、ジンジャーは反核の市民運動に興味を持ち始める…。



ジンジャー(エル・ファニング)とローザ(アリス・イングラート)は、同じ病院の隣のベッドで生まれて以来、ずっと一緒に育ってきました。彼女たちは、学校もそっちのけで2人で行動し、いろいろな事を語り合い、ヒッチハイクをして男の子と遊んだり、煙草やアルコールを試したりと青春を謳歌しています。しかし、奔放かつ信心深いローザに振り回されがちなジンジャーは、徐々にうまくいかないと感じるようになり、やがて、1人で詩を書いたりと別の世界を見るようになっていきます。

ジンジャーは、キューバ危機が進行する中で、少しでも世界を破滅から救いたいと、反核集会に参加するなど、青春の奔放な世界から少しづつ世の中に関心を持つようになります。一方で、ジンジャーの両親は、お互い折り合いが悪く、母のナタリー(クリスティーナ・ヘンドリックス)と一緒に住んでいたジンジャーは、母とも喧嘩してしまい、父のローランド(アレッサンドロ・ニヴォラ)の家に住むようになりました。父親のいないローザも、自由人であるローランドの影響を受け、それはやがて恋に変わって行きます。

ある日ローランドのヨットの中で、父とローザのセックスを知ってしまったジンジャーはその事実を受け入れられなくなります。ますます激しくなる反核集会で逮捕されてしまったジンジャーは、家に連れ戻されましたが、精神的にも不安定になっていました。父母やローザとその母や友人たちが集まった中で、ジンジャーは悩みを問い詰められますが、ついに父とローザの秘密を暴露。悲観した母は、大量の薬を飲み、自殺を図ります。病院で母の処置を待つジンジャーは詩を書きながら、すべてを許し、明るい未来を目指そうと考え始めるのでした…。

ジンジャーの朝

美しい映像と、俳優たちの演技が楽しめる映画だったと思いました。冒頭の広島の原爆のシーンから一転して2人の少女時代に転換し、一気17歳まで時代が進みますが、このあたりの進行は見事だと思います。そして、ジンジャーの青春時代に。母は友達のローザの悪影響を心配しているようです。そういった感じで、前半はどちらかというと青春物語という感じで、ほのぼのと進んでいきました。

そして、父母の決裂シーンから雰囲気が一変、さらにローザが父に手紙を書くあたりから、ジンジャーの顔が険しくなってきます。警察の拘留から帰って来た時の、ジンジャーを問い詰める家族や友人たちのシーンがこの映画の中での一番の緊迫したシーンで、その後の父ローランドの、自己弁護に回る反応が良くも悪くも印象を残します。不倫の言い訳としては、なかなか例を見ない、自爆的なものでした。

全体としては、少女から大人になっていく女性の姿を描いた物語で、美しい映像や、素晴らしい演技に見どころが多い映画だったと思います。ただ、それ以上の主張については、反戦とかは出てくるのですが、それほど強い感じはないので、あくまでもジンジャーの姿を通して、青春の悩みや明日への適応していく姿を描いたという事でしょう。引き合いに出す、原爆やキューバ危機があまりにも大きな事件で、不釣り合い感は拭えないのですが、それらをベースに生への希求を演じる、エル・ファニングや周囲の人も含めた演技を見るべき映画だと思いました。

2019.5.12 HCMC自宅にて、Amazon Prime よりパソコン鑑賞

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

プロフィール

torrent13

Author:torrent13
映画は見たり見なかったりの時を過ごしてきましたが、現状ベトナム在住で、時間があるので、主にネットで見ています。昔はSF映画と、ミニシアターが好きでしたが、その後は西部劇、そして、最近では邦画や古いハリウッド映画などにも見る範囲を広げてきました。

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