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「判決、ふたつの希望」 ベイルートの民族対立と未来への希望

名作を見る8月その4。今回は、レバノン映画で、「判決、ふたつの希望」。まだ新しい、2017年の映画です。監督は、ジアド・ドゥエイリで、タランティーノ監督の映画の撮影助手で活躍した方が、レバノンに帰国後撮影した映画です。レバノン・フランス合作の作品。ヴェネツィアではコンペティション部門にノミネートされ、カメル・エル・バシャが男優賞を受賞。オスカーでは外国語映画賞にノミネートされました。2018年度のキネ旬ベストテンで10位でした。
原題:L'insulte (2017)

あらすじ
自動車修理工場を経営するトニー・ハンナ(アデル・カラム)は、国内のパレスチナ難民排除を訴えるキリスト教系の政党の信奉者。妻のシリーン(リタ・ハイエク)は妊娠中でした。ある日、街の建物の修繕事業を請け負う業者の監督であった、ヤーセル・サラーメ(カメル・エル・バシャ)は、トニーの家のベランダの排水管が違法であるため修繕に行きますが、トニーに断られ、勝手に修繕すると、トニーはそれを粉砕し、ヤーセルは「クソ野郎」と罵ります。トニーは業者の上司に暴言の謝罪を要求し、上司はヤーセルをトニーの修理工場に連れて行きますが、トニーは、「シャロンに抹殺されれば良かった」と暴言を吐いたため、逆上したヤーセルはトニーの腹を殴り、肋骨を2本、折ってしまいました。

トニーは、ヤーセルに対して訴訟を起こしますが、障害の原因となった暴言を法廷で口にすることができず、訴えは棄却されます。収まらないトニーですが、ある夜、作業中にトニーは仕事場で倒れ、妻は夫の体を運んだため早産になり、産まれた子は人工呼吸器につながれてしまいました。トニーはキリスト教系の愛国者で有名弁護士のワハビー(カミーユ・サラメ)とともに再審に臨み、一方、ヤーセルの弁護士となったナディーン(ディヤマン・アブー・アッブード)は、パレスチナ難民の人権を重視して弁護し、本人の意思を離れて、民族間の思惑が対立する激しい論戦が展開されていきます。そして、発端となったトニーの暴言を起爆剤に傍聴者も乱闘を起こすようになり、メディアにもスクープされ、レバノン全土で注目されるようになっていきました。

法廷での議論はレバノン内戦の記憶を呼び戻し、世論の対立を生み出していきます。トニーには、嫌がらせや脅迫が寄せられ、さらに過熱する中、ついに大統領までも仲を取り持ちますが、収まりません。ワハビー弁護士は調査の中で、トニーが、76年に起こった、キリスト教徒の民間人数百人が殺害された、ダムールの虐殺の生き残りであることを突き止め、心証を良くするため法廷で映像を放映。トニーは激怒し、泣き崩れている父親の肩を抱いて勝手に退廷してしまいました。その夜ヤーセルはトニーの工場を訪れ、あえて内戦を引き合いを出して挑発。トニーは、激怒してヤーセルの腹を殴りますが、ヤーセルはそこで一言、謝罪を口にしました。そして迎えた判決の日、無罪で片が付き双方が安堵すると、法廷を去る二人はお互い見つめ合ったのでした。



判決、ふたつの希望

冒頭からテンポのいい展開に引き込まれていきます。あくまでも、激しい感情の噴出が連続していく展開でした。いつでも一触即発と言う雰囲気です。レバノン人のキリスト教徒の立場からすれば、パレスチナ人の流入は災厄でしかなく、それが元で内戦が連続する状況を経験しています。一方、パレスチナ人の側は、イスラエルから逃れて難民として肩身の狭い生活をしていますが、民族の誇りを傷つける、この暴言は看過できませんでした。些細なことから発展したそんな対立に乗った、両者の思想を増幅する形で、弁護士が論戦を行い、かつての内戦の記憶を呼び戻しつつ、国内の民族間のわだかまりに火をつけていきます。

そのような、心情を激しく吐露していく物語の展開に、一気に見せられていきます。監督は、タランティーノの元で数々の名作の撮影を共にしてきた人物。一流のエンターテインメント作りが、身についているのでしょう。とてもうまいと思います。その面白さと、地元レバノンに戻って、祖国の状況を重ねた時、この映画ができてきたのではないかと思いました。垢ぬけないローカルな雰囲気ではなく、素晴らしいドラマに仕上がっていると思います。映像も大変美しいものでした。民族の過去の記憶は消すことができませんし、個人の感情にしろ、民族の想いにしろ、根源的には妥協できるものでは無いでしょう。どう解決するかは、人間の理性が試されます。

リタ・ハイエクがすごく美しいと思いました。中東美人という感じで見とれてしまいます。ヴェネツィアで男優賞のカメル・エル・バシャは、渋い演技ですね。殴らせておいて、謝るよ…。しっかり決まっていました。アデル・カラムが熱演ですし、カミーユ・サラメの憎まれ役も素晴らしいと思います。やはり、憎たらしい演技をそれらしく演じられると、凄いなと思います。この映画は、ベイルートの街の全景があちこちで登場します。混乱の続いたベイルートは、かつて中東のパリと呼ばれた都。いまはだいぶん落ち着いたのでしょうか。ちなみに、私が今住んでいるサイゴンは、東洋のパリと呼ばれていました。どちらもフランス統治の都市なので、親近感があります。

PS:この映画を見ている途中で、ベイルートの港湾倉庫の爆発のニュースが飛び込んできました。被災された方に哀悼の意を表しますとともに、一日も早い復興を祈念します。

2020.8.5 HCMC自宅にてAmazonPrimeよりのパソコン鑑賞
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

プロフィール

torrent13

Author:torrent13
映画は見たり見なかったりの時を過ごしてきましたが、現状ベトナム在住で、時間があるので、主にネットで見ています。昔はSF映画と、ミニシアターが好きでしたが、その後は西部劇、そして、最近では邦画や古いハリウッド映画などにも見る範囲を広げてきました。

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