
「薄氷の殺人」 屈折した愛情表現が冬の大地に響き渡る

原題:白日焰火
英題:Black Coal, Thin Ice
あらすじ
1999年。刑事のジャン・ズーリー:張自力(リャオ・ファン:廖凡)は、妻とホテルで過ごした後、正式に離婚しました。その頃、中国各所の石炭工場でバラバラ死体の一部が発見され、それは石炭と共にダンプで運ばれて、一日のうちに広範囲に拡散されたというものでした。身元は共に発見された身分証から、石炭工場の計量部で働くリアン・ジージュン:梁志軍(ワン・シュエビン:王學兵)とされ、妻でクリーニング店に勤めるウー・ジージェン:吳志貞(グイ・ルンメイ:桂綸鎂)は泣き崩れます。ジャンたちは、参考人としてダンプ運転手を確保しようとしましたが、銃撃戦となり、参考人と刑事2名が死亡してしまいました。
2004年。ジャンは刑事警察から工場の保安係に回され、酒浸りの日々を送っていた時、かつての同僚のワン刑事(ユー・アイレイ:余皚磊)が、ウーの張り込みをしているのに出会います。ワン刑事は連続殺人事件を追っており、手口が99年の事件と酷似しており、すべてウーに関わった男たちが被害にあっていました。興味を抱いたジャンは、クリーニング店に行き、ウーを観察し始めます。そして、いつしかウー自身への興味も生まれていきました。ウーが店員として働き始めたのは1999年のことで、早々に高価なコートをダメにして客の1人と揉め、弁償を求められていましたが、いつしかその客は来なくなったとのこと。直後にウーの夫が亡くなり、そのまま雇い続けているとのことでした。
ジャンは、スケート場や映画にウーを誘い、それをワン刑事が尾行していました。その時、ワン刑事は二人を尾行するトラックを発見、そのトラック運転手を連続殺人の容疑者として逮捕しますが、男にスケート靴で撲殺されてしまいます。その頃、ジャンも尾行に気づき、ある日ジャンはその男を逆に尾行すると、男は、ビニールシートを包んだ何かを、鉄橋の上から石炭列車に次々と投げ落としているのを発見します。その男は、殺されたはずのリアンではないかと推定、ウーに確かめると、ウーは99年に夫のリアンが強盗で人を殺し、自分が死んだことにして、死人と入れ替わったと告白します。その後、リアンはウーを監視し、近寄る男を次々と殺していきました。ジャンはウーを説得し、リアンをおびき寄せると、警官を見て逃走したリアンは射殺されます。
警察は、さらに99年の死体の身元の調査を進めます。弁償を強要しその後来なくなった客のコートから発見された名刺を手掛かりに、持ち主が、ナイトクラブ「白日焰火」のオーナーの夫で、彼は99年に愛人と失踪したことが判明。ジャンはウーを誘って観覧車に乗り「白日焰火」のネオンを指して、自白を勧めます。そしてそのまま観覧車の中で関係を持ちました。翌朝、二人は夜にまた会う約束をした後、ジャンは警察に報告。ウーは逮捕されます。ウーはコート代を弁償できず、客に肉体関係を何度も強要され、殺したのでした。夫のリアンは死体の処理に協力したのです。後日、殺人現場の現場検証が行なわれ、その場にビルの屋上からロケット花火が何度も打ち込まれます。ビルの上にいる酔っ払いの仕業で、それは現場検証が終わってもやむことなく、誰も近寄ることができませんでした。

黒竜江省(哈尔滨周辺かな?)で起きる猟奇殺人事件を取り巻くドラマ。筋立ては、オーソドックスな展開と思いますが、凍てついた東北地方の雰囲気が良く出ていました。主人公のジャンの、なんとも不器用で人間的な性格がリアルに描かれ、ヒロインのウーのファムファタールぶりも見事です。登場人物の性格や本心とか、何が良くて何が悪いとか、明確にはあまり表現されません。したがって、見終わった後、放り出された感じで、どう考えていいのか悩みます。リアルに事実を押し付け、あとは見る人の感覚にゆだねるという感じではなかろうかと思いました。
ジャンは、愛情表現の下手な男という位置づけなんでしょう。前妻との離婚もそういう点に問題があったのでは。きっと、愛していても、普通に行動できず、思い余って極端な行動をしてしまうのですね。それが白日焔火で。音や威力は大きくて目立つのですが、太陽の中で輝かない、真昼の花火です。ウーの行動は、意図してなのか、意図しないでのか、わからないのですが、男をうまく引き込んでしまうようです。その微妙な感じの表現が面白いと思いました。なんか固いと思えば、あっさり自白してしまうし、いつも哀愁が漂っている美人で…。危険ですね。リアンとウーの関係性が不明ですが、ウーは重荷と感じていたのでしょうか。
この時代の中国の普通の町の情景もよく出ていると思いました。この時代は高度成長で、どんどん発展し始めた頃。石炭産業も盛んですし、新しいトンネルなど、構造物が増えてきている途上です。その中で、東北地方の食べ物や、町の小さな食堂、クリーニング屋など、普通の生活が描かれています。そして、そういうことがじっくりと描かれた作品の世界に浸ってしまいました。白日焔火のマダムが、愛人と逃げた夫が金を要求してきたと思うところなども思わず中国らしさを感じましたし、ネットの商売の胡散臭さなども、怪しさも加えています。寡作な監督さんですが、確実に高評価されているようで、他作品も見てみたいと思いました。
2020.8.16 HCMC自宅にてAmazonPrimeよりのパソコン鑑賞