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「薄氷の殺人」 屈折した愛情表現が冬の大地に響き渡る

名画を見る8月その16。今回は、ベルリン国際映画祭で金熊賞と、最優秀男優賞を受賞した「薄氷の殺人」です。中国のノワールということで、どんな作品か楽しみです。桂綸鎂(グイ・ルンメイ)の写真が目を引きます。2014年の映画で、監督は刁亦男(ディアオ・イーナン)でした。
原題:白日焰火
英題:Black Coal, Thin Ice


あらすじ
1999年。刑事のジャン・ズーリー:張自力(リャオ・ファン:廖凡)は、妻とホテルで過ごした後、正式に離婚しました。その頃、中国各所の石炭工場でバラバラ死体の一部が発見され、それは石炭と共にダンプで運ばれて、一日のうちに広範囲に拡散されたというものでした。身元は共に発見された身分証から、石炭工場の計量部で働くリアン・ジージュン:梁志軍(ワン・シュエビン:王學兵)とされ、妻でクリーニング店に勤めるウー・ジージェン:吳志貞(グイ・ルンメイ:桂綸鎂)は泣き崩れます。ジャンたちは、参考人としてダンプ運転手を確保しようとしましたが、銃撃戦となり、参考人と刑事2名が死亡してしまいました。

2004年。ジャンは刑事警察から工場の保安係に回され、酒浸りの日々を送っていた時、かつての同僚のワン刑事(ユー・アイレイ:余皚磊)が、ウーの張り込みをしているのに出会います。ワン刑事は連続殺人事件を追っており、手口が99年の事件と酷似しており、すべてウーに関わった男たちが被害にあっていました。興味を抱いたジャンは、クリーニング店に行き、ウーを観察し始めます。そして、いつしかウー自身への興味も生まれていきました。ウーが店員として働き始めたのは1999年のことで、早々に高価なコートをダメにして客の1人と揉め、弁償を求められていましたが、いつしかその客は来なくなったとのこと。直後にウーの夫が亡くなり、そのまま雇い続けているとのことでした。

ジャンは、スケート場や映画にウーを誘い、それをワン刑事が尾行していました。その時、ワン刑事は二人を尾行するトラックを発見、そのトラック運転手を連続殺人の容疑者として逮捕しますが、男にスケート靴で撲殺されてしまいます。その頃、ジャンも尾行に気づき、ある日ジャンはその男を逆に尾行すると、男は、ビニールシートを包んだ何かを、鉄橋の上から石炭列車に次々と投げ落としているのを発見します。その男は、殺されたはずのリアンではないかと推定、ウーに確かめると、ウーは99年に夫のリアンが強盗で人を殺し、自分が死んだことにして、死人と入れ替わったと告白します。その後、リアンはウーを監視し、近寄る男を次々と殺していきました。ジャンはウーを説得し、リアンをおびき寄せると、警官を見て逃走したリアンは射殺されます。

警察は、さらに99年の死体の身元の調査を進めます。弁償を強要しその後来なくなった客のコートから発見された名刺を手掛かりに、持ち主が、ナイトクラブ「白日焰火」のオーナーの夫で、彼は99年に愛人と失踪したことが判明。ジャンはウーを誘って観覧車に乗り「白日焰火」のネオンを指して、自白を勧めます。そしてそのまま観覧車の中で関係を持ちました。翌朝、二人は夜にまた会う約束をした後、ジャンは警察に報告。ウーは逮捕されます。ウーはコート代を弁償できず、客に肉体関係を何度も強要され、殺したのでした。夫のリアンは死体の処理に協力したのです。後日、殺人現場の現場検証が行なわれ、その場にビルの屋上からロケット花火が何度も打ち込まれます。ビルの上にいる酔っ払いの仕業で、それは現場検証が終わってもやむことなく、誰も近寄ることができませんでした。



薄氷の殺人

黒竜江省(哈尔滨周辺かな?)で起きる猟奇殺人事件を取り巻くドラマ。筋立ては、オーソドックスな展開と思いますが、凍てついた東北地方の雰囲気が良く出ていました。主人公のジャンの、なんとも不器用で人間的な性格がリアルに描かれ、ヒロインのウーのファムファタールぶりも見事です。登場人物の性格や本心とか、何が良くて何が悪いとか、明確にはあまり表現されません。したがって、見終わった後、放り出された感じで、どう考えていいのか悩みます。リアルに事実を押し付け、あとは見る人の感覚にゆだねるという感じではなかろうかと思いました。

ジャンは、愛情表現の下手な男という位置づけなんでしょう。前妻との離婚もそういう点に問題があったのでは。きっと、愛していても、普通に行動できず、思い余って極端な行動をしてしまうのですね。それが白日焔火で。音や威力は大きくて目立つのですが、太陽の中で輝かない、真昼の花火です。ウーの行動は、意図してなのか、意図しないでのか、わからないのですが、男をうまく引き込んでしまうようです。その微妙な感じの表現が面白いと思いました。なんか固いと思えば、あっさり自白してしまうし、いつも哀愁が漂っている美人で…。危険ですね。リアンとウーの関係性が不明ですが、ウーは重荷と感じていたのでしょうか。

この時代の中国の普通の町の情景もよく出ていると思いました。この時代は高度成長で、どんどん発展し始めた頃。石炭産業も盛んですし、新しいトンネルなど、構造物が増えてきている途上です。その中で、東北地方の食べ物や、町の小さな食堂、クリーニング屋など、普通の生活が描かれています。そして、そういうことがじっくりと描かれた作品の世界に浸ってしまいました。白日焔火のマダムが、愛人と逃げた夫が金を要求してきたと思うところなども思わず中国らしさを感じましたし、ネットの商売の胡散臭さなども、怪しさも加えています。寡作な監督さんですが、確実に高評価されているようで、他作品も見てみたいと思いました。

2020.8.16 HCMC自宅にてAmazonPrimeよりのパソコン鑑賞
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ジャンル : 映画

「フェアウェル」 アメリカ移民から見た中国家族

ネットを見ていると、今やっている「The Farewell」が評判がすこぶるいいことに気づき、見に行きました。その評価は、IMDBが8.1、Metascoreが89、Rotten Tomatoes に至っては99%。さすがに、このスコアだと気になります!言語は70%が北京語らしいのですが、まぁ、自分は英語より中国語の方が得意と思っているので、大丈夫でしょう。最近聞いていないので黴が生えてますが…。2019年公開の、ルル・ワン監督の作品です。
原題:The Farewell

あらすじ
 ネタバレですので注意してください!
中国系アメリカ人の作家ビリ(オークワフィナ)は、長春に住む祖母(シュウジェン・ザオ)と仲良しでした。ところが、父母から祖母は末期の癌にかかっており、余命数ヶ月であることを知らされます。しかし中国の習慣から、この事実は本人に知らされておらず、ちょうど、日本に住むビリの従兄が長春で結婚式を挙げることになったので、これを機会に祖母との最後の交流の意味を込めて親族一同長春に集まることになりました。ところが、ビリだけは、取り乱すといけないからとニューヨークに残るように言われてしまいます。

ビリは、両親には告げずに別の便で長春に向かい、無理やり親族の集まりに合流し、秘密を祖母には明かさないということを皆に誓いますが、告知に関して度々両親や親族と衝突することになります。中国での価値観は、当人の精神的負担を周囲の人々が分担するという、集団尊重の価値観であり、アメリカの個人を尊重する価値観とは異なるというのが対立の根本にありました。祖母も夫の死にあたっては同様の行動をとっていたのでした。結婚式は大いに盛り上がって無事終わり、その夜祖母は、ビリに紅包を与え、自分の夢を追うために使う様にと伝えます。そして、皆はアメリカ・日本のそれぞれの家に帰っていったのでした。

後日談:6年後、祖母は健在です!



The Farewell

この映画は、評価が高いという先入観を持って力みかえって見に行くと肩透かしを食うと思います。きわめて単純なコメディだと思いました。ただ、アメリカ映画という意味も含め、いろいろな文化を持つ人の視点から見ると、それぞれ感慨深いものがあると思います。この映画は、「実際の嘘に基づく物語」というテロップで始まります。これは、監督のリリ・ワンの実体験に基づく物語で、リリ・ワン自身、6歳の時にアメリカに移民していますから、主人公のビリは彼女そのものということになります。非常にプライベートなコメディなのでした。

コメディの要素のある程度の部分は、中国とそして、日本も含めたステレオタイプの表現で笑いを取っていきます。監督自身はそのステレオタイプの実際を百も承知でしょうから、それは意図したものでしょう。ビリが長春に着くと、荷物を持とうと沢山人が集まってきますが、実際今ではそんなことは無いですね。この辺りから始まっていかにもありそうなことから無さそうなことまで、いわゆる「あるある」が詰め込まれています。そんな中国からのアメリカと日本への、移民を持つ親族と家族の物語。そして、物語の本筋は、がん告知を巡っての家族のありかたの物語でした。

日本から結婚式に向かった愛子も、いかにもステレオタイプを演じていて、是非云々よりも、日本人の雰囲気ってこんな感じかな?と、いかにも解らせられた感じがしました。私は、がん告知を巡る葛藤の物語以上に、中国・アメリカ・日本を巡る移民の実生活と逞しさを感じました。どこに行っても目立つ中国人の逞しさではあるのですが、日本人もまた違った形で逞しいと思います。その力の根源として、家族を中心とした繋がりが確かに存在するということを改めて気づかされる作品だと思いました。軽いタッチで、かつ説得力のある映画だと思いました。

ちなみに、ビリを演じたオークワフィナのコメディエンヌぶりがけっこう笑えました。そして、話していた北京語は、ネイティブでないという役柄だけに、私にとってはかなり解りやすかったです。

2019.10.24 HCMC CGV Cinemas Vincom Dong Khoi にて鑑賞

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プロフィール

torrent13

Author:torrent13
映画は見たり見なかったりの時を過ごしてきましたが、現状ベトナム在住で、時間があるので、主にネットで見ています。昔はSF映画と、ミニシアターが好きでしたが、その後は西部劇、そして、最近では邦画や古いハリウッド映画などにも見る範囲を広げてきました。

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