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「別離(2011)」 秘密が暴かれていく負の連鎖を精緻に描く

名画を見る8月その24。アスガル・ファルハディ監督の「別離」は、2011年の映画で、ベルリン国際映画祭で金熊賞と男優賞、女優賞を獲得。アカデミー賞でも外国語映画賞を獲得しました。その他受賞した賞は数知れず。キネ旬ベストテンは第2位でした。
英題:Nader and Simin, A Separation (2011)

あらすじ
移民として出国したいシミン(レイラ・ハタミ)と、アルツハイマーの父の介護で、シミンに同行できないナデル(ペイマン・モアディ)は、離婚調停中でしたが、娘のテルメー(サリナ・ファルハディ)の帰属で折り合わず、シミンは実家に移り、別居することにしました。ナデルは妻の不在の為、父の世話のために、シミンの知人の義妹であるラジエー(サレー・バヤト)を雇いますが、彼女は短気な夫のホッジャト (シャハブ・ホセイニ)に黙って働いていました。ある日、所要のできたラジエーは、ナデルの父をベッドに縛りつけ、閉じ込めて出かけると、ベッドから落ちた父は、帰宅したナデルとテルメーに意識不明で発見され、激昂したナデルは、帰ってきたラジエーをアパートの玄関から押し出し、ラジエーは階段に倒れ、そのまま流産してしまいます。

ラジエーとホッジャトはナデルを告訴し、裁判が始まりました。争点は、ナデルがラジエーの妊娠を知っていたかどうかとなり、ナデルは知らなかったと証言し、かつ、ドアから押し出しても、位置関係から階段に倒れ込むことはなく、流産の直接原因にはならないと主張。逆に、父をベッドに縛り付けて放置した罪でラジエーを告訴します。対立が深まり、ホッジャトはナデルの娘テルメーの学校に押し掛けるなど、行動がエスカレートして行きました。一方、テルメーはナデルの行動から、彼がラジエーの妊娠を知らなかったという証言は嘘だと見抜いていました。テルメーはナデルに問いただし、ナデルは嘘を認めます。しかし、判事に証言を求められたテルメーは、父親をかばうために嘘の証言をしてしまいます。

追いつめらていくテルメーを心配したシミンは、ナデルの反対を押し切り、ホッジャトとラジエーに示談を提案。シミンが示談を進める中で、ラジエーはシミンに、事件の前日にナデルの父が町中に出てしまい、彼をかばうために車にはねられ、その夜から腹痛がしていたと密かに告白しました。夫ホッジャトに話せば殺される、しかし真実を隠して慰謝料をもらうことは、幼い娘に災いをもたらすと、ラジエーは苦渋に満ちた表情で話します。示談手続きの日、シミン、ナデル、そしてテルメーはホッジャトとラジエーの家に行き、手続の最後にナデルは、ナデルのせいで流産したとコーランに誓うようにラジエーに求め、ラジエーは怯えて逃げ出しました。それを追ったホッジャトに真実を語り、ホッジャトはショックを受け錯乱します。

ナデルとシミンの離婚手続きも進み、判事はテルメーに父と母とどちらに付くか回答を求めます。両親の前では話せないとして、ナデルとシミンは席を外し、二人は廊下で離ればなれに待ち続けるのでした。



別離(2011)

ファルハディ監督の作品。「誰もがそれを知っている」や「セールスマン」は見たので、順番を逆に見ている様な感じです。内容的には同様の傾向で、倫理的にマズイことに関する、嘘とか隠し事が徐々に明らかになっていく展開。嘘をついてもすぐばれたり、嘘が嘘を呼んで、負のスパイラルに入ったりします。そういった、人の倫理観をついてくる場面が多くて、見終わった後は、しばらくため息をつくばかりという感じになりました。この映画もそんな題材が、緊張感のある表現の中に盛り込まれ、きっちりと見せてくれます。うまく作り過ぎではないかと思うくらいの、無駄のない精緻な構築感を感じました。

静かな心理的なスリルが展開するこの作品で、いろいろな場面でポイントになっていくのは、ファルハディ監督の娘のサリナが演じるテルメーでした。彼女は親の嘘はお見通しで、子はかすがいと言われつつ、両親は重要な場面での選択を彼女に委ねています。内容を話さずテルメーの意思に任せて判事の前に出したり、両親のどちらが正しいかと、選択をさせたり、最後は父母のどちらに付くかの決定を委ねられて幕を閉じました。テルメー決めてますと言いつつも、これは選べないですね。選んでしまうと映画も崩壊してしまいます。きっと何かいい解決策を持っているのでしょう。11歳の娘に自分たちの責任や判断をすべて押し付けてしまったような、何とも言えないラストでした。

話は、秘密が明らかになることによって展開していきますが、皆けっこう秘密を話してしまうのですね。最初の頃は何で言うの?というセリフもあったのですが、結局話しやすい人に告白すると、それを利用されてしまいという格好です。すべて明らかになることが、結論に近づくので良いのですが、ああ、言っちゃうんだ…という場面にも遭遇します。結局秘密は隠しとおせないという宿命にあるという事ですかね。ファルハディ監督の作品は、やはり見始めるととても面白いので、ここまで来たら、他の作品も見てみたいと思いました。

2020.8.24 HCMC自宅にてAmazonPrimeよりのパソコン鑑賞
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「シミュレーション」 アバンギャルドなイラン映画を鑑賞

ネット配信のみのイラン映画。ちょっと半信半疑で見ていましたが、結局最後まで見きってしまいました。途中でやめると不安になるような映画です。しかし、結構気に障るようなところがあるのと、字幕がグジャグジャなので、おすすめはしません。2017年イラン製作で、Abed Abestの初監督ということです。

あらすじ
すべてが緑色の小道具と間仕切りのドアのみがならぶ舞台で行なわれる会話劇。警察に連行された4人の証言はすれ違っているが、事実はどうだったのか…。



冒頭は、緑色の幕を背景に、静かな登場人物紹介でスタート。そして、紹介されなかった3人の男、アベド(Abed Abest)、ヴァヒド(Vahid Rad)、アリス(Majid Yousefi) が車に乗り込みます。そして、場面が変り警察署に3人とエスィー(Daniyal Khojasteh)が連行されてきます。裏庭での事情聴取を行っているうちに、3人はエスィーの家で楽しく酒を飲んでいたと証言するものの、突如エスィーが、3人が押し入り盗みを働こうとしたので喧嘩になったと主張。長引くので家族に連絡を取るアベド。しかし、取り調べは乱闘になる中で、警察の一人が負傷し、救急車を呼び、アベドからの連絡で現れた家族の車の中で寝ていた娘が起きだしてきて、救急車にはねられるという事態が起こってしまいました。

場面は変わって、エスィーの家に入ろうとする3人。中に入った3人は、今来客として税関が来ているよいうことで、倉庫の中で3人は1時間待たされます、知り合いということで3人は押しかけていますが、少しすれ違った程度の様です。やがて3人は部屋に迎え入れられ、他愛もないが、お互いに作り笑いをしながらのピリピリした話が酒と共に進みます。その中で、エスィーがイラクとの戦争中に海外に住んでいたことを話し、国を出た原因は警察に拘束された時に家族が警察が来て救急車に娘がはねられたという、冒頭に起こった現象と同じ話をします。その後、酒を飲みながら音楽をかけて騒ぐ4人でしたが、音楽がうるさいので止めようとした男が、ナイフで配線を切断しようとしたため、喧嘩騒ぎになり警察に踏み込まれました。

場面は変わって3人は車の中で、エスィーの家に行こうとしています。アベドがエスィーに連絡をとり、3人は困るというエスィーに対し、一人で行くと安心させるアベド。とにかく門の前まで3人で行って入り込もうという作戦です。途中で家に寄るアベドは父と妻と娘に会い、水を飲みたいというアリスの為に水を持ってきます。そして、一緒に行きたいという娘を振り切り、3人は車に乗り込みました。

シミュレーション

というお話で、前衛的な舞台のように、緑色の小道具のみ。あと、CGの装飾も入っています。音楽は少なめですが、クラブミュージックのような、アヴァンギャルドな感じです。それで時系列を遡りながら、会話中心の劇が進みます。この映画というか、配信の欠点は、日本語訳がかなり酷いこと。なんとか意味を類推しながら見ていかないといけません。翻訳ソフトでそのまま訳したみたいな感じがします。

実際、3人がなぜエシィーの家を訪ねたのか、その目的がはっきり判りませんでした。単なる一夜の遊びなのか、何か盗むとか貰うとか目的があったのか?ただ、出てくる会話は、笑顔を見せながら、半ば無礼に怒りながら延々と続き、緊張感がありますが、どうも神経に触るような感じで、見ているとかなり居心地が悪くなりました。そんな感じなので、途中で放棄する訳にもいかず、最後まで見てしまったという訳です。そのあたりがこの映画のポイントなのでしょうか。ストーリー自体は悲劇の原因を探っていくようなもの。それは、つまらない原因によって起こった悲劇の無常観が出ていますが、そのストーリーだけがこの映画のテーマでも無いように思います。

この映画は、いくつかの映画界に出品され、コンペティションでは、トランシルヴァニア国際映画祭で作品賞のノミネートまで行っています。ベルリン、トロント、サンダンスなど多数の映画祭に出品されていますが、これはコンペティション外も含まれます。確かに、映画祭向きではあります。トリアーのドッグヴィルは床に書かれた区分けだけで演じられていましたが、これはドアと必要な家財道具だけで、壁はありません。その上すべて緑色という舞台です。ここまでのアヴァンギャルドが普通に作られているイラン映画の層の厚さを感じました。さすが映画に伝統のある国だと思いました。

2019.5.17 HCMC自宅にてAmazon Prime からのパソコン鑑賞

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「セールスマン」 久しぶりのイラン映画に、上質の物語と演技を堪能

以前、劇場で予告編を見て気になっていた映画をやっと鑑賞できました。アカデミー賞外国語映画賞受賞。2016年の映画で、イラン・フランス製作です。アスガル・ファルハディ監督は、これが2度目に受賞になります。

あらすじ
小さな劇団に所属する夫婦のエマッドとラナの夫婦は、やむを得ず転居したばかりの家で、ラナが何者かに襲われてしまう。エマッドは警察に届けないというラナに納得がいかず、自ら犯人を捜し始めるが、それを境に二人の生活は一変してしまう…。



エマッド(シャハブ・ホセイニ)とラナ(タラネ・アリドゥスティ)夫妻は、小さな劇団に所属し、セールスマンの死の舞台の練習に余念がありません。二人は、今まで住んでいた住居から引っ越さざるを得なくなり、劇団員の紹介で新居に引っ越しますが、その中の一つの部屋には前の住人の荷物が残ったままでした。ある日、妻が一人でいるときに、玄関のチャイムがなり、夫と思って鍵を開けて、シャワーに向かった妻は、そのまま暴漢に襲われてしまいます。近所の人の話では、前の住民はいかがわしい商売をしていた女で、犯人は彼女に会いに来た人間ではないかと推測されました。

部屋の中にあった忘れ物の自動車のキーから、近所にずっと駐車中の車に目星をつけた夫は、警察に連絡しようとしますが、妻はこれを拒否。それをすると2人に破局が訪れると話します。夫は納得がいかず、その車から持ち主を割り出し、ある日、その男を以前に住んでいた、今は廃墟になっている家に呼び出しました。そこに現れたのは、心臓が悪いという年老いた男でした。エマッドは事件のことを問いただしますが、男は否定します。しかし、その様子から犯人だと断定。家族を呼んですべて懺悔させると問い詰めますが、舞台の時間が近づいたため、部屋に閉じ込めてエマッドは一旦劇場に出かけます。

ラナを連れて再び戻ったエマッドは、男が心臓の発作で倒れているのを見て、男の家族に連絡。男の車から心臓の薬を探し出して服用させると、男は何とか持ち直します。妻は、彼を許すようにエマッドを説得しますが、エマッドは微妙な表情です。そこに現れた男の家族は、事件の背景は何も知らず、男の命を救ってくれたことにエマッドに心からの礼を言います。家族が男を連れ帰る前に、エマッドは男と2人だけで別室に入り、男が侵入した時に部屋に置いて行った金の額を聞き、答えられないと顔面を殴り、忘れ物と適当な金額を渡して返します。男は、呆然としてその家から出る途中、再び発作を起こし倒れてしまいました。

ラナは、呆然と救急車を見送り、エマッドとの間にはもう言葉はなく、心もどこかにかき消えてしまいました。

セールスマン


妻を襲った犯人を見つけてからの展開が凄かったです。そして、最後の行動。金を置いていった意味。それが、すべてを語り、すべてに影を落とすということになります。妻が警察への通報を拒否した理由。それを夫が暴いてしまいました。そして、もう元には戻れないという絶望感に支配されていきます。犯人にとっては、家族を前に、直接告白させなくとも、言葉以上に、心に深く突き立てた一撃でした。そして、再起不能となってしまいます。絶望的な結末ですが、あまりにもうまく決まっており、このラストはお見事というほかありません。

前半から中盤までは、行ったり来たりの展開で、少しづつエピソードを積み上げていきます。そもそも、冒頭の家を崩してしまうような工事がすごい。ここでは、こういうことが当たり前に起こるのでしょうか?それに対してさして抵抗する場面が無いのは、ちょっと不思議でした。そして、物語の舞台はイランのイスラムの戒律が厳しい世界。倫理観がしっかりしている世界ですので、堕落してしまう事は、すべてを失うことに繋がる、ということになるようです。

イランの映画を見るのはいつ以来でしょう。たまたま巡り合わなかったということですが、21世紀初頭にみた、キアロスタミの「風が吹くまま」以来と思います。そして、今回「セールスマン」を見て、イランの映画のクオリティの高さを改めて実感しました。自分の映画体験がまだまだ貧しいなと実感する次第です。そもそもファルハディ監督の映画自体初めてですので、いろいろと見ていきたいと思いました。この映画、俳優さんの演技がどれをとっても素晴らしいと思いました。

2019.3.8 HCMC自宅にて、Amazon Prime Videoよりパソコン鑑賞

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プロフィール

torrent13

Author:torrent13
映画は見たり見なかったりの時を過ごしてきましたが、現状ベトナム在住で、時間があるので、主にネットで見ています。昔はSF映画と、ミニシアターが好きでしたが、その後は西部劇、そして、最近では邦画や古いハリウッド映画などにも見る範囲を広げてきました。

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