
「もうひとりの息子」 子供の取り違えから生まれた新たな絆

原題:Le fils de l'autre (2012)
あらすじ
ヨセフ(ジュール・シトリュク)は、テルアビブに住むユダヤ人のシルバーグ家の息子で、軍人の父アロン(パスカル・エルベ)と、母オリット(エマニュエル・ドゥヴォス)、妹の4人家族。ある日、兵役の検査で両親との血液型の不一致が判明し、湾岸戦争で混乱する病院で取り違えられたことが判明。相手は、パレスチナ人一家のアル・ベザス家の次男のヤシン(マハディ・ザハビ)でした。ヤシンは、父のサイード(ハリファ・ナトゥール)、母のライラ(アリーン・オマリ)、長男ビラル(マフムード・シャラビ)、妹アミナの5人家族。サイードは、隠し通すつもりでしたが、その後、ヨセフには兵役取り止めの通知が届き、医大に合格してフランスから帰国したヤシンも、事実を知ることになり、二人は悲しみ悩むこととなります。
オリットの招待で、アル・ベザス家はシルバーグ家を訪問しました。ヨセフとヤシンは打ち解けますが、父親達は民族問題でいがみ合ってしまいます。ヤシンの兄のビラルもユダヤ人に激しい憎しみを持っており、ヤシンを敵と罵るようになっていきます。やがてヤシンは、アロンの手配で通行証を手に入れ、ヨセフのビーチでのバイトを手伝うようになり、商売上手なヤシンのおかげで売り上げが上がっていきました。しかし、ビラルの攻撃はますます激しくなっていきました。そして、ヨセフとヤシンは、同じ思いを持ち、自分たちを、アブラハムの2人の子、イサクとイシュマエルに例えるようになっていきます。
ある日、偶然オリットとヤシンが再開し、オリットは思わず実子のヤシンを抱き寄せます。ヨセフも一人でパレスチナのアル・ベザス家に向かい、辿り着くとライラは笑顔で迎え、精一杯もてなしました。気まずい雰囲気の中で、ヨセフは意を決して歌い出すと、その場が和み、家族みんなに歌が広がっていきました。夜、シルバーグ夫妻が迎えに訪れ、子供たちの交流の中で、親や兄弟たちも徐々に打ち解けていきます。ある夜、ビラルもテルアビブへの通行証を手に入れると、ヤシンとヨセフの3人で街を歩いていました。ところが、ならず者に絡まれ、ヨセフがナイフで刺されてしまいます。そして、病院に担ぎ込まれ治療を終えると、3人はこれからの未来に向けて新たな絆を確かめ合ったのでした。

赤ちゃんの取り違えが、成人の頃発覚してしまうお話。その家族が、イスラエルのユダヤ人家族と、パレスチナ人家族。話は双方の複雑な立場から、混沌とした展開となっていきます。映画の印象としては厳しい話のわりに、意外とあっさりしていて、あまり深刻になっていかないような気がします。それだけに、問題点を端的に表現していると思いました。ユダヤ人家族の妹が初めて聞いた時の、「お兄さん、返すの?」というのには、正直笑ってしまいました。ストレートなんですね。むしろストレートさがいい感じです。
社会や宗教の硬直性も表現されて、深刻な問題や現状の矛盾点も十分表現されています。そして何より、父と母と子供たちは、それぞれが慣れ親しんでいく過程がだいぶ違うように描かれているところに、興味深く感じました。母親たちは同化が早く、交流へと導こうとしています。子供たちは同年代の仲間として慣れ親しんでいく形です。問題は父親たちで、なかなか適応できず、交流の進んだ家族たちに後押しされて、初めて歩み寄っていく形でした。最後は若い三人で未来志向で終わるところは、将来への希望が描かれていて良かったと思いました。
映画で描きたかったと思われること。対立からは幸福な未来は生まれず、今回は偶然のきっかけがもたらした両者の交流が、一つでも二つでも増えていくことが、両者の平和的な共存に向けての解決に繋がっていくということ。そのような現実の平和が訪れることを祈るばかりです。いろいろな問題を織り込んで、明解かつ端的に纏められたいい作品だと思いました。
2021.2.13 HCMC自宅にてGyao!よりのパソコン鑑賞