
「ワーキング・ガールズ」 国境を超える悩める三人の娼婦たち

原題:Filles de joie (2020)
あらすじ
雨の中、死体を穴に落として埋める3人の映像からスタート。団地の忙しい朝、母と子供3人と暮らすアクセル(サラ・フォレスティエ)は、ドミニク(ノエミ・ルヴォヴスキ)の待つ車に向かい、黒人娘のコンソ(アナベル・ラングロンヌ)が合流すると、3人で国境を越え、職場であるベルギーの娼館へと通います。その日、アクセルは子供の問題で学校に呼び出されると、そこにはDVで接触禁止となっている夫(ニコラ・カザレ)がいたため口論になりました。そして、別の日アクセルを尾行した夫は娼館に現れ、アクセルはやむなく彼を客として扱う事になってしまいます。
コンソは白人男性(ジョナ・ブロケ)と恋人関係にあり、将来子供を持って結婚することまで夢見ていました。ある日コンソは、仕事を終えて待ち合わせの部屋に向かうと、そこでは彼に子供が生まれたことを祝う乱交パーティとなっており、騙されたことを悟ったコンソは、麻薬の過剰摂取で危篤となり、アクセルに助けられます。そして、アクセルとドミニクは男を嵌めて二度とコンソの前に現れない様、懲罰を与えます。ドミニクは遊びに出るたびに金の無心をする息子と、失恋以降反抗的になった娘に手を焼いていました。そして、娘が売春に手を染めたと判り、家族の前で切れてしまいます。
アクセルが家に戻ると、夫が子供たちを連れ戻しに来ていました。彼は、妻が娼婦である以上、親権を取り戻せると考えいたのです。そして、アクセルの体を求め、もみあいになると、アクセルの母(Els Deceukelier)が殴打し、夫は意識を失って倒れてしまいます。ドミニクとコンソも現れ、ドミニクは夫を窒息死させ、三人で工事現場に運んで埋めてしまいました。翌日、3人がベンチで休んでいると、工事の作業員たちが休憩にやって来ました。そしてミキサー車が現れます。ドミニクが訪ねると、これから生コンを注入するということなのでした。

国境を超えて働く三人の娼婦たちは、普通の母親であり娘でした。そして、夫や子供のこと、あるいは自分の将来に不安や問題を抱えていました。アクセルは問題を起こす子供たちと、DV夫との離婚問題。ドミニクは二人の年ごろの子供の行動。コンソは、普通に働きたいという願い。いずれも、ごく普通の平穏と幸福を求め、その為に生活資金を稼いでいます。しかし、それぞれの日常は平穏ではなく、周りの男性はどうしようもない男ばかり。そして、DV夫の殺人までに至りました。そんな3人の女性の姿を描いた映画でした。
娼婦というシチュエーションもあって、面白くテンポよく話が進んで行きます。娼館を訪ねる男たちの性癖はかなり変わっている人が多く、そのあたりもネタになっていて、コメディタッチで楽しめます。DV夫の殺害は、「OUT」みたいでしたが、そこまでの猟奇的映画ではありません。そして、今回三人に起こった騒動は一通りの解決を見て、新たな生活が始まる可能性を見せて終わりました。この映画は、テンポも良く大変面白いし、三人も特徴的に良く描かれていると思います。ただし、ここまで描いたのであれば、もっとドラマティックに展開できるのではないかという感じが残らないでもありません。題材の割にはこじんまりとまとまったかなという感じでした。
普段の姿と、娼婦の姿のギャップも面白いと思いました。これは、実際にそういう事だと思います。そして、男たちはその屋内の姿を求めて娼館に通い、一方で外では蔑むという事実が素直に描かれています。そんな男の行動も、休憩中の彼女たちの会話のネタになっているのでした。刺激的な題材を扱う半面、普通の映画以上に、あまりにも生活感のあふれる女性たちの映画でした。視点としては面白かったと思いました。今年のオスカーのベルギー代表作品に選ばれたようです。ちょっとインパクト不足かな…?
2021.1.31 HCMC自宅にてMyFFF映画祭サイトよりパソコン鑑賞