
「誘う処女」 砂の女をも連想する15歳のファンタジー

原題:Supernova (2014)
あらすじ
平坦な畑の間を走ってきた一本道は、メイス(ハイテ・ヤンセン)の住む家にぶつかると左に曲がり、そのまま川に突き出た桟橋に至ります。15歳のメイスの祖父は、川に飛び込んで自殺し、残されて口を利かなくなった祖母(ヘルガ・ベッチィガー)と、父母の4人で、町から隔絶されたこの地に暮らしていました。メイスの家では、夜に次の車が家に突っ込んでくるのを待っていました。父親(ボブ・シュワルツェ)はかつてこの家に突っ込み、仕事ができなくなって居着いたのです。母(タマル・ファン・デン・ドップ)は、これまで突っ込んできた男たちの記念品を眺めながら、次の出会いを心待ちにする一方で、この危険な家からの引っ越しを考えていましたが、誰も聞き入れませんでした。
メイスは、宇宙や、物理法則を考えの基準にして、思春期の少女が考える幾多の幻想の中で日々を暮らしていました。話し相手は遠くに住むレスビアンのスーのみ。普段は屋根に上って双眼鏡で遠くを見たり、古い桟橋の狭い柱の上で過ごしたりの毎日でした。夜は時折何台かの車がメイスの家の前を通り、桟橋の袂の岸辺で乱痴気騒ぎを繰り広げます。それを見に行ったメイスは追いかけられたこともありました。そして、ある日の夜中に大きなクラッシュ音を聞き、行ってみると一台の車が家に突っ込み、運転手の若い男が気を失っていました。メイスの家族は彼を家に運ぶと介抱し始めました。
男はボリス(David Schütter)といい、家族の手助けで少しずつ回復していきました。その男を見て、父と母は愛情が再燃し、久しぶりに愛し合います。祖母の顔に笑顔が戻ります。父は、家の手前に設置させられるたびに撤去していた、危険を示す道路標識をすべて元の場所に戻しました。そして、父母は二人で父の治療の為、久しぶりに家を出て町の病院に向かいました。残ったメイスはボリスと向かい合い、ボリスの気を引いていきます。そして、初めてのセックスの中で、メイスは宇宙の物理法則を連想し、スーパーノヴァへとつなげていきます。しかし、ボリスが途中でやめてしまったため、欲求不満となり、帰ってきた両親は二人の様子を見てボリスを追い出してしまいました。しかし、メイスは桟橋に向かい、一つの殻を破ったように、のびのびと青空の元、桟橋からダイブするのでした。

アートで美しい映画でした。そしてヒロインのハイテ・ヤンセンがとても美しい。メイスは15歳設定ですが、彼女は当時23歳?その美しい身体が何度も映されます。前半はほぼ情景描写で、ゆっくり物語が進むのでかなり我慢を強いられます。しかし、そこは美しい映像を眺めていれば、おのずと時間は過ぎていくのでしょう。祖母のヘルガ・ベッチィガーは口をきかず、ただただ首を痙攣の様に横に振るだけですが、雰囲気のあるいい演技だと思いました。あとは、標識を全部立てるところは、こんなにいろいろあったのかと、思わず笑ってしまいます。
ストーリーは、15歳の少女の性への目覚めを中心に、宇宙の法則を使って幻想的に表現していくもの。エネルギー保存の法則から始まって、分子運動とか、星の誕生とか、いろいろな事象が、生活映像やや自分の心情に重ねて表現されるのが、ポイントです。そして、ボリスが来てから急に活気づく家族たち。標識を復活させ、今度は突っ込んでくる車を避けようとするところは、いかにもボリスをからめとった感じ。この家族は代々そうやって男を引き込んできたのでしょうか。父親はクラッシュで仕事ができなくなって、居ついているようですし、そのパターンは砂の女を強く連想しました。だいぶシチュエーションは違うのですが。
ラスト近くで、ボリスを追い出すのは、どういう意味なのでしょう。せっかく引っ張り込んだら、置いておけばいいのにと言う感じです。そういう所とか、今一つ必然性を感じない(あるいは、私には理解できない)ようなエピソードなどもあったので、全体的にすっきりはしませんでしたが、アート系で映像イメージの美しい、瑞々しい映画を楽しみました。エロスもいろいろと挿入されていたと思いますが、それらは美しく表現されているので、猥雑さは全く感じられませんでした。意外と心に残る映画なのかもしれません。けっこう好きですね…。
2021.2.28 HCMC自宅にてGayo!よりのパソコン鑑賞