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「レバノン」 技巧をこらしたアイロニカルな反戦映画

無料動画にあった、「レバノン」は、2009年のヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞受賞作です。やはり、3大映画祭の作品賞は一度は見ておきたいということで、早速視聴しました。

1982年6月、イスラエルによるレバノン侵攻により、レバノン戦争が勃発。イスラエル軍の4人の戦車兵が、前線に配置される。指揮官アシ(イタイ・ティラン)、反抗的なヘルツル(オシュリ・コーエン)、気弱な砲撃手シムリック(ヨアヴ・ドナット)、臆病な操縦士イーガル(ミハエル・モショノフ)の4人は、戦車のスコープ越しに、まるで悪夢のような光景を目の当たりにする。そんななか、彼らの乗った戦車が、対戦車弾の直撃を受け、敵中で孤立。身に危機が迫った彼らは、発狂しそうな恐怖を感じながらも、この状況から脱出しようと試みる。



この映画は、ほとんどすべての場面が戦車の中で撮影されていることで知られています。外の世界の映像は、ほとんどが戦車の中からのスコープ映像のみという徹底した演出です。主要な登場する人物は、戦車に乗り組む4人に、部隊長と戦車を狙撃したが捕虜となったシリア兵。援軍として登場するファランヘ党の兵士。くらいでしょうか。

歩兵が空爆後の町を制圧する作戦に、一台だけ援護の為に随行した戦車。しかし、内情は素人集団でした、砲撃手は実戦が初めてで、援護の必要な時に、手が震えて引き金も引けず、逡巡してやっと引けた時には、相手が民間人だったという始末。そして、指揮官の指示には徹底して反抗し、なぜやらなければいけないのか?といつも問い詰めるヘルツル。などなど、素人集団が迷走している状況です。

市街戦で、敵が立てこもる部屋に砲撃し、5歳の子供を殺してしまい、半狂乱になった母親が雨あられと砲撃が続く中、戦車に詰め寄る。なかなか生々しいシーンです。撃った方も素人みたいなものですから、余計救われません。そして、これらはすべて戦車のスコープの中から撮影されています。

やがて狙撃されてしまい、不調な戦車に入ってくる情報はいずれ錯綜し、敵の制圧しているエリアに侵入、ファランヘ党の兵士の先導で脱出を試みますが結局はぐれてしまい、夜の砲撃の絶えない街を迷走することになりますが…

レバノン

まずは、指揮命令系統が失われている4人の素人集団のような空間が、見ていてやるせない。戦争のバカバカしさを大いに感じさせます。戦車の中が異常に汚い。本当にこんなに汚いものなんでしょうか。足元には水がたまり、トイレは容器ですまし、環境は相当にひどいものです。油臭いにおいや、腐ったようなにおいが充満していることでしょう。それだけに、ラストの落差が大きく、また更に、大きな虚無感を与えてくれます。ある種のカタルシスでしょうか?

全体的には、素人が投入されている目的意識のない虚しさや、日常生活を一気に闇に陥れる戦争の悲劇の大きさや、死に直面した状況での切迫感や、全体が全く把握できない焦燥感や、これらを執拗に描きながら最後に解放して見せるという構成です。

反戦映画であることは間違いないのですが、直接的なメッセージ性は感じられず、特殊な環境設定と、素人4人の掛け合いが主になって話が進み、そして、やはり最後の光景のイメージが強くて、あまりにも、うまくまとまってしまった、あるいはオチてしまったという感じになりました。そういう意味で、トラックが撃たれて鶏が歩き回って見たり、母親の服が脱げてしまったり、変なオチがいろいろなところについて回るので、ブラックコメディ的であるとも言えます。そういう意味では、一流の大真面目な皮肉です。

もう一つ、印象に残ったのは、途中の旅行会社の廃墟で、旅行会社の壁にかかっているであろう、パリやロンドンなどの写真が、戦車のスコープ越に映される。狭い視野でみると、それでもパリやロンドンにいるような錯覚を感じる。なかなか面白い場面でした。

結局、大作感があるとか、感動を呼び起こすとか、何か強く訴えかけるとかが今一つかな?と思いました。いろいろな要素を詰め込みすぎて、技巧先行かつ打ち消しあっているような気もしたりして…。という訳で、金獅子賞かいな?と思わなくもないですが、なかなか面白い映画と思いました。
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「悪い女」 性依存者のいる日常

「悪い女」原題は「The Slut」(痴女)。何やらいわくありげなタイトルが興味をそそります。監督・主演をつとめるハガル・ベン=アシャーの初の劇場向け長編映画。2011年エルサレム映画祭初回作品賞、カンヌ国際映画祭批評家週間出品と、何かのインパクトが期待できます。

あらすじ
タマールは、田舎に住む美しい女性で、女手ひとつで、2人の娘を育てているが、自分の欲求を抑えきれずに、複数の村の男性と関係を持っている。一方、シャイは、財産を整理するために村に帰ってくるが、タマールをひと目見て恋仲になり、結婚するが、周囲にも不穏な空気が漂い始める。



冒頭は、馬が車にはねられるシーンで始まり、不穏なムードが漂います。そして、タマールと村の男の屋外での絡みのあと、あどけない2人の娘の母との戯れ。崩れた雰囲気のタマールですが、母の役目はしっかりとしているようです。

そこに現れたシャイは、獣医でしょうか。時折村の男を誘い、みだらな行動を続けるタマールを知ってか知らずか恋に落ち、タマールも結婚を承諾しました。その後も隙を見て村の男がやってきますが、拒み続けているようです。やがて、タマールは妊娠。貞淑な生活をしていますが、一方で禁断症状が出て気もそぞろ。卵の生産に携わっていますが、2度ほど卵を故意に割ってしまう場面があり、情緒不安定になっています。それを見つめる、今まで彼女を楽しんでいた男たちの目も不穏な様子でした。

ある日、タマールはシャイに子供を堕ろしてしまったと告げます。シャイはがっかりした表情を見せますが、怒るでもなく複雑な心境になっているようです。そしてタマールは堰を切ったように、再び村の男たちを誘うようになります。それを目撃したタマールは、怒りに任せつつ家に帰り、子供を寝かせつけると、そのうちの一人を自分のベッドに運んで、自分も服を脱ぎ…(さすがに映像ではこの先は映りません)

それを窓からみたタマールは、村の男の家に駆けこみます。(何をしていたかは写されません)翌日シャイは村人にボコボコにされ、それを愛おしく介抱するタマールの姿があるのでした…。

悪い女

この映画は、セリフが極端に少なく、ほぼ静かに動作と表情で語られる部分が多いので、なかなか読み取りづらいところもあるので、筋を追って文字にしてみると、どう考えても乱れた関係で、究極の背徳行為をひたすら描いた様にも見えます。そいう面では、静かな思わせぶりな映画のフリをして、ただただ下衆な映画のように見えなくもありません。

一方で、静かな緊張感も男たちの間に漂います。みんなで共有していたタマールが独占されてしまった状況での、言葉に出さないが異様なぎらつき。そして、依存症のため耐えきれず中絶までしてしまい、我が子が夫にいたずらさせられているのを見て、自分も他の男のところに走る?そこでそのことを言ったか言わなかったか解りませんが、翌日みんなに無言でボコボコにされ、それを介抱する。

一つは、共有物であった彼女を取られた男たちの静かな葛藤と爆発を描いたようにも見えますが、それだけですか?という気もします。そして、タマールは性依存症。普通のセックスだけでなく、口でいかせてみたり、手だけでいかせてみたり。セックスはせずとも、何らかの性的行為に関する依存症ということのようです。重度であれば、本人あるいは周囲に問題が起こることもあるので、精神疾患として、社会の中で保護され、治癒に向けて支援すべきところですが、田舎の閉ざされた世界では、ただ男たちに利用されるだけ。そんなタマールが、娘にいたずらされても、最後にシャイを介抱するシーンは、男たちの身勝手さを蔑む以上に、一方ならぬ強烈な愛おしさと侘しさを感じさせられる。そういう部分もあります。

結局、この映画は、あまりにも起こっていることを淡々と流しているので、どの点に力点が置かれているというものがない気がします。あるとすればラストシーンでちょっと言いたいことを表現した感じでしょうか?全体的に、どう感じるかは見るもの次第。田舎の閉ざされた世界の中で性依存症の人がいる日常と、必然を捕らえた佳作といえるのではと思いました。

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

プロフィール

torrent13

Author:torrent13
映画は見たり見なかったりの時を過ごしてきましたが、現状ベトナム在住で、時間があるので、主にネットで見ています。昔はSF映画と、ミニシアターが好きでしたが、その後は西部劇、そして、最近では邦画や古いハリウッド映画などにも見る範囲を広げてきました。

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