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「スローなブギにしてくれ」 あの時代にタイムスリップ

片岡義男の小説も読みましたが、70年代後半の青春小説。そして、この映画は、その頃絶好調であった角川映画の一つで、ヒロインに浅野温子を迎え、盛んにテレビコマーシャルが流れていました。そして、南佳孝のあの曲が耳について離れず、深く記憶に残るのでした。1981年の映画で監督は、藤田敏八です。

あらすじ
第三京浜を走っていた白いムスタングから、仔猫と若い女の子が放り出されました。彼女さち乃(浅野温子)は、後ろから来たオートバイの少年ゴロー(古尾谷雅人)に救けられ、二人はゴローの部屋で一緒に暮しはじめます。ムスタングの男(山崎努)は、福生の旧米軍ハウスに住み、仕事仲間の輝男(原田芳雄)と敬子(浅野裕子)のカップルと同居していました。敬子には、どちらが父親かわからない子供がいましたが、妹の由紀江(竹田かほり)が面倒を見ていました。そんな中、輝男がジョギング中に心臓発作で死んでしまいます。一方さち乃は、行きつけのスナック、クイーンエリザベスでバイトをはじめ、バイトを辞めたゴローは、さち乃と客の仲を嫉妬して消えてしまいました。

さち乃はゴローのいない寂しさで、ムスタングの男に連絡を取り、旅行に出かけます。ムスタングの男の旅の目的は、別居中の妻との子供の、ピアノ発表会に行くためでした。さち乃は、男の様子や、子供の電話から事情を察し、男と別れます。そして、再びゴローとさち乃の生活が始まったある日、さち乃が作業服の男たちに強姦されてしまいます。ゴローは、傷ついたさち乃に心無い言葉を投げつつ、必死で男たちを見つけ、叩きのめします。ゴローにさち乃は「あたしよりも仇を討つことしか考えないの」とつぶやき、再びムスタングの男と会って、彼の家に身を寄せました。しかし、そこには敬子と由紀江と赤ん坊が同居しており、さち乃は馴染めず、ハウスから去って行きます。

一方、敬子も男と別れることを決意し、由紀江と赤ん坊を連れてハウスから出ていきます。消えたさち乃を求めて、ムスタングの男はゴローを訪ねますが、ゴローは、再び作業服の男たちに襲われ、男は巻き添えで腹を刺されてしまいました。病院に男を見舞ったさち乃は、男にキッパリと男に別れを告げ、スナックでしょげているゴローのところに戻ります。素直に喜べないゴローに、マスター(室田日出男)は「スローなブギにしてくれ」を流します。やがて再び夏が訪れ、さち乃はゴローの子供を身ごもっていました。その頃、海から引き揚げられた白いムスタングに、女の死体がありました。助かった男に、刑事が女との関係を聞くと、男は「拾った、今度は猫は連れてなかった」と答えるのでした。



スローなブギにしてくれ

この曲を聴くと学生時代を思い出します。この映画が公開された1981年3月と言うと、大学に合格して一人で上京し、下宿を探している頃になります。映画は見ませんでしたが、テレビでも盛んに宣伝されていたのではないかと思います。映画は見ずとも、浅野温子が出ていた映画の宣伝と、この曲が、ちょうど大学生として上京した時の、当時東京周辺の町やいろいろなスポットをうろうろしていた時期の思い出と一緒に蘇ってくるのです。インパクトの強い名曲だと思いますが、中間部はあまり思い出しません(笑)。

会社員になって、昔の雰囲気を思い出すためにも、片岡義男の小説は読みました。しかし、それからも相当な時間がたってしまいました。そして、やっと映画を見ています。きっかけは、Amazon Primeにあったことと、少しまえに「赤ちょうちん」を見たこと。なるほど、見てみると同じ藤田敏八監督の作品で、時代が変わっただけで、雰囲気は似ていました。秋吉久美子と浅野温子に、何か共通するものを感じてしまいました。男がまだ未熟でちょっと女性に対する思慮に足りないところなんかも似ています。そんな若いカップルに子供が生まれるのも同じです。

ストーリーはいろいろと、常識とはかけ離れた一筋縄ではいかない展開をしてしまいますが、それが青春時代の彷徨をよく表現していると思いました。もちろん当時の風景も懐かしいもので、完全にこの時代にトリップしてしまいます。俳優陣も豪華で若いですね。浅野温子古尾谷雅人山崎努が主役ですが、その周りに、室田日出男がいい役だったり、岸部一徳や鈴木ヒロミツが常連客だったり、石橋蓮司、原田芳雄、奥田瑛二とかが少しづつでてきます。ピアノを弾く少女は、おしんに出る前の小林綾子。結局、映画としてどうかという以前に、この曲を聴くとトリップしてしまうので、冷静に鑑賞するのは無理なのでした。

浅野温子が乗っていたキハ20は、八高線かな??

2020.8.30 HCMC自宅にてAmazonPrimeよりのパソコン鑑賞
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「一人息子」 東京物語の雰囲気もある母と子の物語

しばらく、成瀬巳喜男監督の作品を追っていたのですが、ちょっとお休みして、今日は同時代の小津安二郎の作品を見てみます。この映画は、小津安二郎監督の初の劇映画のトーキー作品で、クレジットは松竹大船ですが、実際は、松竹蒲田で撮影された最後の作品とのことです。1936年の映画で、いろいろと記念すべき作品ですね。キネ旬4位でした。

あらすじ
1923年信州。つね(飯田蝶子)は、製糸工場で働きながら、良介(葉山正雄)という一人息子を女手一つで育てていました。ある日、つねの家に、良介の先生の大久保(笠智衆)が、つねが良介の中学進学を許可してくれたことのお礼に現れます。つねはいつも中学に行かなくていいと言っていましたが、良介が勝手に大久保に伝えていたのでした。つねは大久保が帰った後、良介を叱りますが、翌日、良介にしっかり勉強して偉くなるように話します。

1935年、つねは良介を東京に送り出し、良介(日守新一)は大学を卒業して市役所で働き始めます。それを聞いたつねは、翌春良介に会うため上京しました。二人は再会を喜び合いますが、案内した家は一軒のボロ家でした。良介は、杉子(坪内美子)という妻をもらったと突然紹介し、子供まで生まれていました。そして、良介は市役所を辞め、夜学の教師をしていたのでした。一旗揚げようと上京した大久保先生も、妻(浪花友子)とともに、寂れたトンカツ屋の主人になっていました。それでも良介はなけなしの金を使って、つねを東京見物に案内します。

つねは、杉子を気に入り、良介は安心します。しかし、生活を嘆き上京を後悔する良介に、つねは怒りを顕わにします。翌日、杉子は自分の着物を売ってお金を作り、良介につねを東京を案内するように渡します。その日、良介の家の隣に住んでいるおたか(吉川満子)の息子の富坊(突貫小僧)が、馬に蹴られてしまい、良介は急いでその子を病院に送り届け、入院費を出せそうにないおたかにお金を渡し、つねはその姿を見て感動し、一番のお土産ができたと喜びました。つねは信州に帰ると、良介は再度奮起することを杉子に誓い、つねは同僚に、良介が成功して、いい嫁も貰って安心したと話すのでした。



一人息子

オールドブラックジョーの物悲しい音楽で始まるこの映画。女工で生計を立てる母と子の姿は、社会派映画の雰囲気さえありました。そして、年をとって女工として働くことができなくなると、雑用をしながら工場で働き続け、息子の学業を応援します。その息子が、都会で夢破れて人生を諦めることに怒り、また息子の善行と、貧しい中でも幸せそうな家庭を見て安心して田舎に帰り、静かに眠る母親をオールドブラックジョーの音楽が包みました。小さな幸福と無常観に溢れる人生ドラマで、素晴らしい作品と思いました。

飯田蝶子が最初から最後まで登場しますが、素晴らしい演技だったと思います。子供を育て上げる母親の苦労と幸福を一身に体現する姿を演じています。そして、映像がまたアートな雰囲気をあちこちで見せて目に残ります。大都会の東京の一角の寂れた原野のような場所で生活する人々。都心や映画館とのギャップがクローズアップされますが、その遮るもののない風景が、却って人間の素の姿を表現しているようでした。登場人物の、松竹の見慣れた俳優陣も、板についた演技だったと思いました。

小津安二郎監督の、上京してくる親の物語といえば、東京物語を思い出すのですが、あのような複雑な環境ではなく、至ってシンプル。しかし、この中にはあの映画の原点を感じます。人物の構図も、ちょっとうつむき加減で横を向いて振り返るような姿が良く見られて特徴的でした。この映画を見ていると、後年に至るまでの監督のスタイルがしっかり確立されているのだなと思いました。トーキーという意味では、音楽やセリフよりも効果音があちこちで非常にうまく使われていたと思います。一方、セリフの方はちょっと表情とアンバランスな感じもしました。いずれにしてもいい作品を見せてもらいました。

2021.4.2 HCMC自宅にてパソコン鑑賞

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「禍福(前篇、後篇)」 入江たか子主演の長篇メロドラマ

成瀬巳喜男監督の1937年の映画で、前篇、後篇に分かれる大作。と言っても、足して2時間半くらいの作品です。こういった形態の作品は、この時代にも時折見かけますが、成瀬監督では、これが唯一ではないでしょうか。菊池寛原作、PCL製作です。

あらすじ
前篇
外交官試験に合格した慎太郎(高田稔)には、豊美(入江たか子)という恋人がありましたが、実家の経済状態が破綻し、多額の持参金のある百合恵(竹久千恵子)との縁談を進めていることを知ります。慎太郎は豊美に、必ず縁談を断ると約束して実家に向かいますが、父からの説得に抗えず、おまけに百合恵に惹かれてしまい、慎太郎は東京に戻っても、豊美にも何も告げられず、そうこうしているうちに、ダンスホールで百合恵と踊っているところを、豊美の親友である三千子(逢初夢子)に見られてしまい、やっと豊美に別れを切り出します。豊美は慎太郎に、色摩、悪魔と罵って別れますが、慎太郎の子を宿していました。豊美は意地でも、独りで子どもを育て、やがて復讐しようと誓うのでした。

後篇
銀座のブティックで働き始めた豊美は、上客の百合恵に気に入られ、慎太郎との関係を知らないまま親しくなります。豊美はやがて、百合恵が慎太郎の相手であることを悟りますが、出産が近い為店を辞め、出産後母子ふたりの生活をし始めたところへ、何も知らない百合恵が、豊美の境遇を哀れみ、夫が出張中で不在の百合恵の家で生活するように勧めます。豊美は復讐の時期が来たと考え、百合恵の家に移りますが、赤ちゃんを親身に世話してくれる百合恵を見て、復讐心は薄れていきます。そして、慎太郎が帰国し、豊美は赤ちゃんを抱いて出迎えます。慎太郎は顔色を変え、すべてを悟った百合恵は、誰もが傷つかない解決策として、豊美の子を自分と慎太郎の子として引き取りたいと豊美に話し、豊美も承諾。豊美は、託児所で明るく働き始めるのでした。



禍福(前篇、後篇)

という、前後篇に分かれたお話でした。しかし、要約すれば、あらすじはこの程度の長さに収まる通り、密度がけっこう薄い映画で、半分の長さにしても、問題ないような映画に思えます。じっくり描いて、当時の大スターの二人である、高田・入江コンビを徹底して見せたかったということでしょうか。とはいっても、基調があまり変わらない映画ですので、見続けて面白いというものではありませんし、主役二人を中心に入れ代わり立ち代わり現れる他の登場人物も、出ては消えと言う感じで、逢初夢子と彼女に付き従う大川平八郎以外は、継続して絡むこともないようです。従って、話に厚みが生まれず、あっさりした感じになっていました。

ラストは、竹久千恵子が、入江たか子の産んだ子を引き取るというもので、合理的な解決に思えます。但し、あまりに現実的な解決になってしまうので、物語として見せられると、ため息が出るばかりと言う映画。現代だと違う結末になりそうですが、個人よりも財力や家が重要視される時代には、なるべくしてなったと考えてよいのでしょうか。入江たか子も、何を考えているのか計りかねるような雰囲気があって、セリフはきついことを言っているのですが、表情などは至って大きな変化はない感じ。赤ちゃんと公園に遊びに行って、観覧車とか、悉く竹久千恵子が一緒に乗っているのを見て、最後は赤ちゃんを取られる(引き取る)だろうなと、推測していた次第です。

脇役陣はおなじみの方々ですが、出番が少なく、あまり印象深くありません。敢えて言えば、伊藤智子かなぁ。間を置いて2回出てきたので。と、全体としてはそういう事なんですが、この映画は北林谷栄さんの映画デビュー作なのですね。役は、家を出た入江たか子を泊めるブティックの同僚。野球観戦に行った場面が一番大きく映っていると思います。ということで、入江たか子とメロドラマを楽しむという映画ですが、見どころがある作品かというと、あまりそうでも…という感じでした。

2021.03.28 HCMC自宅にてパソコン鑑賞

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「朝の並木路」 成瀬監督の千葉早智子主演最後の作品

成瀬巳喜男監督の1936年の映画で、この年最後の作品。そして、これが千葉早智子を主演に据えた最後の作品になるのかな?この翌年、成瀬監督と結婚。そして3年後離婚することとなります。また、久しぶりのオリジナル脚本というのも楽しみです。

あらすじ
田舎の生活に飽きた千代(千葉早智子)は、父(御橋公)母の見送りを受け、東京に働きに出ます。親友の久子(赤木蘭子)が丸の内の大きな会社で働いているとのことで、久子を頼っていくのでした。ところが、住所を訪ねたところ、そこはカフェ。久子は茂代という名で、女給としてカフェで住み込みで働いているのでした。茂代の計らいでマダム(清川玉枝)に頼み込み、仕事が見つかるまでの間、居候で住まわせてもらう事になります。しかし、仕事が見つからないまま時が経ち、ある日店の客の小川(大川平八郎)の忘れ物を届けた千代は、別の日に小川と街で出会い、小川も千代の職探しに協力し始めます。

職探しのうまくいかない千代は、女給で一時をしのごうかと考え始めます。小川は止めますが、背に腹は代えられず、カフェで女給を始めると、小川は毎日のように千代の元に通ってくるようになりました。すっかり小川を愛してしまった千代は、自ら結婚も意識し始めました。ある日、小川の相手をして飲んでいる時、千代は楽しくてついつい飲み過ぎてしまいました。千代と小川は二人で温泉旅行に来ていました。幸せいっぱいの千代でしたが、小川がしきりに人の姿を気にしていました。旅館の軒先に人影を見た小川は突然旅館を引き払い、車で場所を移り始めます。そして警官に追われ始め、小川は会社の金を使い込んだので追われている。愛しているなら心中してくれと千代に迫ります。

心中を断り、必死に自首を勧める千代ですが、警察隊に追われ、小川は千代の手を引いて一緒に死んでくれと森の中をどこまでも逃げていきます。目が醒めると、そこはカフェの女給部屋でした。茂代は、千代は昨日飲み過ぎてテーブルで寝てしまい、うなされていたとの事。すべては夢でした。そして千代は、茂代から小川が仙台に転勤になるということを聞かされショックを受けます。その時、小川がカフェに現れ、千代に仙台栄転を語り、別れを告げに来ました。小川を見送った千代は貰った仙台の住所の紙片を川に捨てると、清々しい気持ちで新しい仕事探しに、気持ちを切り替えるのでした。



朝の並木路

最初から最後まで、千葉早智子が出演します。成瀬監督のオリジナルストーリーで、この後二人が結婚することを考えると、何か微笑ましい映画に思えてきます。ラストは、恋は実らないにしても、綺麗な終わり方で、清々しい感じを残しました。小川との新婚旅行のような夢の逃避行は、千葉早智子の疑似新婚旅行のようで、その夢のバッドエンドは、小川との別れをにおわせます。言わば夢のお告げ。ありていに言えば、小川の方はアッサリ別れられるように、それほど真剣では無かったということで、お客と女給の関係をというものを、千代も夢から覚めて、リアルに悟ったという所でしょう。

ストーリーはシンプルで、まとまりも良くて好感が持てました。いつもの成瀬巳喜男監督らしく、ラストは崖っぷちを走る自動車も出てきて、またか?とハラハラさせますが、看板女優の千葉早智子がここで死んでしまうはずはありません。いつもなら小川だけ死んだということもあり得るのですが、今回はそれはありませんでした。ラストは空を見上げる千葉早智子が美しい、というシーンで締められました。さて、成瀬監督の映画を見続けていて、随分千葉早智子に慣れ親しんできたのですが、それも今作でお別れ、次回からは入江たか子や高峰秀子が登場するようになります。

PCLの初代主演女優の千葉早智子は、ここまでPCLを支えてきました。この後主役の座を譲るようになり、結婚・出産・離婚を経て7年後に引退。戦後は実業家に転身していきます。これで、成瀬=千葉のコンビを見られなくなるのは、寂しい限りですが、時代は変わっていきます。また、この映画では赤木蘭子が準主役という形で登場します。以後、いろいろな映画で渋い役回りを見せてくれる女優さん。存在感がありました。清川玉枝は前作に引き続き出演。清川虹子と共に、コミカルな演技を見せてくれています。女優さんたちも、次の世代へと移っていくようです。

2021.3.27 HCMC自宅にてパソコン鑑賞

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「君と行く路」 因襲に翻弄される青春ラブストーリー

成瀬巳喜男監督の1936年の映画で、「君と行く路」。昭和初期の劇作家、三宅由岐子の代表作とされる「春愁記」を映画化したものです。再び、恋愛ドラマに戻った成瀬巳喜男の作品ですが、どうでしょうか。ヒロインはこの年PCLに移籍した山懸直代ですが、むしろ男性の大川平八郎が主役です。

あらすじ
鎌倉の海岸にある家に、会社勤めの天沼朝次(大川平八郎)と学生の夕次(佐伯秀男)の兄弟に、母親の加代(清川玉枝)の三人が住んでいました。元芸者で妾だった加代は、亡くなった旦那からこの別荘と財産を貰い受けたのです。近所に名家の尾上家の家があり、その娘の霞(山懸直代)と朝次は相思相愛の仲です。しかし、尾上家は財政が苦しく、危機を救うために、霞を資産家の老人に嫁がせ、朝次を遠ざけようとしていました。尾上家では、妾の子とは結婚させられないと交流を遮断し、朝次も半ば諦めていたのでした。そんな時、霞の親友の津紀子(堤真佐子)が東京から、朝次から霞宛ての手紙を持って、尾上家にやって来ます。その道中を目撃した夕次は、津紀子に一目惚れしてしまいます。

軟禁状態の霞を、津紀子は策を弄して連れ出すと、久しぶりに朝次とのデートをセットします。久しぶりに出会った二人は、お互いの愛を確認し、実らない時は一人で死ぬと語り合います。ついに、尾上家に霞の相手が結納に訪れる日、尾上家の執事が朝次の家へやって来ます。執事は、霞の母の命令で、霞の母が見つけた朝次から霞に宛てたラブレターの束を返しに来たのです。朝次は受け取ると、なおも霞から届いた手紙を要求する執事の前で、その手紙を破り捨てて火の中へ投げ込み、更に執事が渡した手切れ金の小切手も投げ込みます。その日、霞は訪ねてきた津紀子に、朝次のもとに届けてほしいと手紙を託します。

その頃、夕次と津紀子はお互いを意識する関係になっていました。朝次は、津紀子に渡された手紙を読むと、「弟の夕次とお付き合いして欲しい」と頼み、二人と母を残して出かけます。朝次はいつまでも帰らず、自動車事故で亡くなったことが知らされます。一方で、家の者の目を盗んで津紀子の家を訪れた霞も、そのまま姿を消してしまいました。そして、いつの間にか家に戻っていた霞は、家の中の池で死体となって発見されたのでした。二人にお別れに現れた津紀子は、同じようにはなりたくないと、夕次のもとをも去っていくのでした。



君と行く路

面白く見られるラブストーリーのドラマ映画ではあるのですが、結論があまりにも唐突である上に、大事件の割にメンバーに何の反省もないという、ちょっと首をかしげる感じが残りました。ラブストーリーは、若い二人の青春映画のようで、妾の子という設定ではありますが、経済的にはむしろ恵まれている家庭。その中で暮らす、元妾と二人の子供という設定です。世間からは白い目で見られる家族ですが、その中で明るく生きている兄弟。見映えがいい容姿にも自信があるようです。そんな世界なので、ちょっと浮ついた感じで、青春のラブストーリーのように話が進んで行きます。貧しい出演者が多い成瀬監督の映画には無かったパターンかもしれません。

良くも悪くもという所ですが、清川玉枝の演じる母親がどうなの?という感じです。前半は、その境遇もあってか、砕けた理解のある母親を演じて、映画に明るい感じを出していますが、話が進むにつれて俗物ぶりが見え隠れし、長男が亡くなったあとは、これが母親の反応だとしたら、ちょっと違うのでは?という内容でした。原作がそういうものなのでしょうが…。当の恋人たち本人の最後の感情も、あまり説明される場面もなく、ちょっと理解しがたい感じで、まぁ、そういうお話なのね…。という印象でした。ちょっと浮ついた雰囲気も含めて、原作が会わなかったのか、成功作とは言えないと思います。

ストーリーには直接的に絡んでないのですが、近所に住む老人に藤原釜足、その芸者上がりの若奥さんとして、この前年に移籍してきた高尾光子も出演。PCLに移籍する俳優さんが増えていっていたようです。成瀬監督の映画の常連では、堤真佐子は出ていますが、千葉早智子さんは今回はいませんでした。いつものように自動車事故で話が動く、成瀬監督の話ではありますが、今回はちょっとモヤモヤした感じ。次に期待しましょう…。

前作に続いて、「展覧会の絵」の音楽が、今回もちょっと歪曲されて出てきました。堤真佐子の電車の中のシーンでした。

2021.3.24 HCMC自宅にてパソコン鑑賞

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「桃中軒雲右衛門(1936)」 芸の道を究めようとする男と女

ここのところ、成瀬巳喜男監督の映画を見続けてきて、今回は年が変わり、1936年の映画です。桃中軒雲右衛門は、大正から昭和期にかけての浪曲師。当時の第一人者として人気を博したとの事です。成瀬監督のいわゆる芸道ものということでしょうか?

あらすじ
桃中軒雲右衛門(月形龍之介)という浪曲師が、妻のお妻(細川ちか子)や弟子を連れて東京へと凱旋興行に向かっていました。かつて浮名を流し、東京にいられなくなって、地方で活躍していた雲右衛門は、再び東京に復帰しようとしているのでした。しかし、静岡で列車から降りた雲右衛門は、松月(藤原釜足)と街の中に消えてしまいます。一行は、街中を探し回りますが、見つけられない中で、弟子の一人が、雲右衛門が途中で会う予定だった息子に宛てた、途中で下車すると書かれた電報を持っていたことが解りました。雲右衛門は、その頃芸者遊びを楽しんでいました。そして、雲右衛門と消えた松月が、一人で一行の前に現れました。

松月が雲右衛門の様子を一行に話し、さらに、雲右衛門の友人で、世話をしてきた倉田(三島雅夫)が姿を現します。倉田は、国府津で雲右衛門を待っていましたが、来ないのでやってきたのです。倉田は、お妻に状況を訪ね、雲右衛門が突然東京に行くのをやめた理由を推し量ります。松月は、雲右衛門の元に戻って説得。芸を見せろと言う、酔ったファンを断り、雲右衛門は一行の元に戻ると、倉田と面会。雲右衛門は東京へ戻る決心をし、倉田が連れてきた息子の泉太郎(伊東薫)とも面会。泉太郎の前で浪曲を披露しました。東京で復帰した雲右衛門は、お妻の三味線の伴奏で、たちまち人気者となっていきます。

ある日宴席で、雲右衛門は千鳥(千葉早智子)という芸者に出会い、そのままいい仲になっています。雲右衛門はこれも芸の肥やしとと考えているようです。一方、お妻は病に伏すようになり、入院してしまいます。お妻は芸の為と許していましたが、そんな雲右衛門を泉太郎は強く非難し始めます。雲右衛門と千鳥の関係は、新聞でも揶揄されるようになりますが、雲右衛門は意に介さず、お妻の見舞いにも足が向かず、非難する泉太郎を福岡にやってしまいます。雲右衛門は、お妻が芸を失った普通の女になるのが恐ろしいと話します。倉田もそんな雲右衛門に怒りを感じ、二人が喧嘩をしている中、お妻の臨終の知らせが入りました。病院を訪れた雲右衛門は、お妻の前で、一人きりで浪曲を披露するのでした。



桃中軒雲右衛門(1936)

桃中軒雲右衛門という人のことは初めて知りました。大正昭和期に活躍し、浪曲の発展をもたらした、浪曲の巨人のような人のようです。成瀬巳喜男監督の芸道ものというのも初めて見ます。描かれている内容を見ながら、頭の中では「浪速恋しぐれ」なんかが、鳴り響いておりました(笑)。ちょっと違いますが…。この物語では、浮気も駆け落ちもすべて芸の為、そんな中で一緒になったお妻に、雲右衛門は何を見ているのか?お妻を一流の三味線奏者として、その芸に惹かれて一緒にいるのか。そしてそこに女は見ていないのか、といった煩悶が、病床で三味線を弾けなくなったお妻を悩ませるという形です。

一方で、芸の肥やしとして千鳥を家に入れ、病床のお妻を省みない(ように見える)雲右衛門に、世間の風当たりや、倉田や泉太郎の糾弾を当てて、芸道と、世間の感覚のずれを浮き彫りにするというテーマを与えていました。ということで、なかなか深いテーマなのですが、正直ちょっと取っつきにくかったというのも事実です。まずは、強面の月形龍之介に、どうも心の動きが図りにくく、入っていきづらいような気がしました。相当独特の世界観なので、すんなり入ってこないかもしれません。中途半端に悩める男になってしまったような感じがします。いろいろな人々も出てきますが、ちょっと散漫な感じでした。

ヒロインは、細川ちか子千葉早智子細川ちか子は、これまでの作品では、あまり出番が多くなかったのですが、ここでは主役です。一方、千葉早智子の方は、それほど印象が強くありません。むしろ、男性陣の三島雅夫御橋公がいい感じです。二人が、雲右衛門をしっかり支えているような感じが良く伝わってきました。華々しい芸の世界とはいえ、大変な世界だなという雰囲気は良く伝わってきました。成瀬巳喜男の芸道ものの作品は、これからなのですが、テーマはしっかりしていたので、これ以降、磨きがかかっていくのでしょうか?

そうそう、ラストの音楽は「展覧会の絵」。その荘厳な感じが、浪曲とコラボしていく感じが見事に決まっていると思いました。

2021.3.24 HCMC自宅にてパソコン鑑賞

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「噂の娘」 一気に弾けるカタストロフに意表をつかれる

成瀬巳喜男監督の1935年の映画。その5本の中の最後の作品です。題名などから、監督らしい女性のドラマが見られるかなと以て期待してみました。いつものメンバーが出演しています。キネ旬8位となりました。

あらすじ
灘屋酒店の店主健吉(御橋公)は、経営が厳しい店に、婿養子としてやってきました。しかし妻は亡くなってしまい、現在は長女の邦江(千葉早智子)と共に店を経営していました。健吉の義父啓作(汐見洋)は、朝から酒を飲み、悠々自適の日々。次女の紀美子(梅園龍子)も帰ってくるなり、お小遣いをねだる始末です。邦江は叔父(藤原釜足)の仲介でお見合いをひかえていました。健吉はあまり乗り気ではないのですが、邦江は相手がお金持ちで、経済的な援助が期待できるので、店や紀美子のことを考えてお見合いを決めたのでした。そして、紀美子の同席で新太郎(大川平八郎)と邦江はお見合いしますが、真面目な邦江の話を、紀美子は悉く混ぜ返していました。

健吉には小料理屋を営むお葉という妾(伊藤智子)があり、邦江は家を出たら、代わりにお葉に家にきてもらいたいと思っていましたが、紀美子は、お母さんとは呼べないと答えます。しかし、お葉は紀美子の実の母で、今までこのことは紀美子には黙っていたのでした。邦江はお葉に、店と健吉をお願いしたいと話し、迎え入れる為に、一度家に来るよう話していました。その時に、紀美子にも話すつもりだったのです。その頃、啓作は健吉に、最近酒の味が変わってきたと話します。健吉は苦し紛れに、何か混ぜ物をして売っているようでした。啓作はそのことを邦江にも伝え、健吉にそれとなく話してやめさせてほしいと伝えます。一方、お見合いの方は、叔父が健吉に、新太郎が紀美子を気に入ってしまったと伝え、邦江の気持ちを知る健吉はその話を断ります。ところが、街で出会った紀美子と新太郎はデートを重ね仲良くなっていたのでした。

邦江は健吉に、啓作もお葉が来ることに賛成していると伝えますが、健吉はお見合いのことを話せません。そして、酒のことも、実験しているだけだと答えます。お葉はお店を売ることにし、健吉は一緒になろうと話しますが、お葉は、紀美子がよく思っていないことが心配でした。ところが、偶然邦江は、紀美子が新太郎と一緒にいるところを目撃してしまい、邦江は店で泣き出してしまいます。叔父から健吉にも電話があり、健吉もそのことを知ると、健吉は紀美子を問い詰める、その日家に来ていたお葉に、紀美子を産んだ人だと紹介しました。そして、紀美子は納得がいかず飛び出したところに、警察が現れ、酒の件で健吉は警察に連行されていきました。健吉は啓作に謝りますが、啓作は、なるようになっただけだと答えるのでした。



噂の娘

前半からテンポよく話が進んで行く、引き締まった展開でした。そして、ラスト近くなって、邦江が紀美子のデートを目撃し、お葉が健吉の家を訪れて、いよいよ舞台が整い、どんな風に処理されるかと盛り上がっていきます。久しぶりに体験するこの感じ。素晴らしい構成だと思いました。そして、健吉は切れてしまってお葉の前に紀美子を引っ張っていき…。健吉さん。それはやってはいけませんね。あなたの守ってきた、妾さんも含めて今まで作ってきた関係がすべて崩壊します。ついでに仕事も崩壊しました。唖然とするような、すべてぶち壊しにするカタストロフが、待っていました。

成瀬巳喜男監督の特にサイレント時代は、後半いよいよラストという所になって、何かのトリガーがあって一気に結末に向けて突き進んでいくような展開が多いと感じていました。「君と別れて」は刃物で刺されるシーンから場所替えへ、「夜ごとの夢」は、強盗から自殺、「限りなき補導」は、交通事故から反撃と死。PCLに変わって綺麗な展開が多かったような気がしますが、これはまた、昔の感じがぶり返したような気がしました。盛り上げて一気に堕としました。そして、締めもなかなか皮肉っぽくて、気が利いています。諸行無常という訳です。

今回は、いつもモダンな役を演じていた、千葉早智子が一転古風な女の役になっています。なるほど、こうしてみるとまた見直しました。梅園龍子は相変わらずですが、こういう感じが似合っています。男性の方は、御橋公汐見洋もなかなか味のある演技でした。藤原釜足は、名脇役ぶりを発揮。伊藤智子は、「妻よ薔薇のやうに」と同じくお妾さん役ですね。コンパクトでドラマの面白さが詰まった面白い作品でした。成瀬巳喜男さんは、なかなか素直に終わってくれない監督さんなんですね。

2021.3.22 HCMC自宅にてパソコン鑑賞

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「サーカス五人組」 哀愁を帯びたジンタの音楽と旅の五人組

今日の成瀬巳喜男作品は、PCL制作の「サーカス五人組」。1935年の映画です。移籍後初年度のこの年は、5作品も制作しているのですね。ネットのものは画質が溶けていて、顔の判別などちょっと苦労しました。

あらすじ
幸吉(大川平八郎)、虎吉(宇留木浩)、甚五(藤原釜足)、六太(リキー宮川)、清六(御橋公)の五人組のジンタは、海沿いの町で一仕事終えて、次の町に行ってみると、仕事が中止になり仕方なく宿でたむろしていました。すると、町にジンタの音が聞こえ、聞くと、曲馬団の興行とのこと。出渋る甚五をおいて四人は見に行きます。甚五は残って宿の娘にちょっかいを出しているうちに、昔馴染みのおきよ(清川虹子)が追いかけてきたため、逃げ出します。曲馬団の団長(丸山定夫)の二人の娘。姉の千代子(堤真佐子)はしっかり者で、妹の澄子(梅園龍子)は気弱な性格で、団員の邦男(加賀晃二)と恋人同士。甚五は暗闇で、その千代子に手を出そうとしたところ、通りかかった虎吉と六太に、とっちめられてしまいました。

次の日も興行は盛況の様子ですが、曲馬団では団長に対する不満が渦巻いていました。その夜も幸吉と清六はカフェで身の上を語り合います。幸吉は父も母も無く、将来は東京でバイオリンを弾きたいという夢がありました。清六は、女房に死なれて女の子を捨ててしまった経歴があるようでした。翌日、五人組が町を出ようとしていると、曲馬団のマネージャー(森野鍛冶哉)が、男性団員のストライキのため、代役として演奏のオファーが入ってきます。一同はテントに赴いて練習を開始。報酬をはずむというので、演奏以外に、それぞれ出番も割り当てられました。しかし、素人の出番は今一つで、反対を押し切ってバイオリン弾いた幸吉は大ブーイング。幸吉の夢を知っている千代子だけが励ましてくれました。

いよいよ澄子の空中ブランコが始まりますが、そこに男性団員がなだれ込んできます。団員と団長と乱闘になり、会場は騒然とする中、恋人と父の団長が争う状況に失望し、思いつめていた澄子は、故意に落下してしまいました。幸い軽傷で済み、それ以後団長は態度を改め、団員たちと和解。五人組は一夜限りでお払い箱になります。再び旅立つ五人を待ち構えていたおきよは、甚五を捕まえ、千代子と幸吉は名残惜しく別れを交わし、「これが旅なのね」とつぶやく千代子に手を振って、五人とおきよは、次の町に旅立っていくのでした。



サーカス五人組

サーカス五人組という題名から、軽妙な喜劇を連想しますが、喜劇ではあるものの、哀愁漂います。このジンタに参加していること自体に、過去が色々とあることは想像できるのですが、そのあたりも身の上話としてクローズアップされました。そして、曲馬団の娘二人が登場。こちらは、性格が変わってしまった父と、恋の板挟みという悩み。そのような情景の中で、五人組の付け焼刃の興行が始まりました。ストライキの原因は妻に死なれて性格が変わったことによる待遇の変化ということで、表現されませんが、すごく根が深い話でもなさそうで、成瀬監督のいつもの展開で、最後に一発事故を起こして収拾しました。

この映画を見ての思うのは、これは画質に苦労したという事もあるかもしれませんが、前半ごちゃごちゃして、うまくストーリーに入っていけなかったこと。いつもと違ってちょっと締まってない感じ。そしてもう一つは、サーカスとジンタですね。音だけの場合も含め、チンドン屋が良く出てくる成瀬監督の映画で、これはその系統を主役に仕立てたものでした。一方サーカスと言えばフェリーニを思い出すのですが、チンドン屋もサーカスも、外には華やかに見せる一方、団員は訳アリという設定になりがちで、こういった世界を常に隣に置いていた成瀬監督は、その時々に、どういう思いを込めていたんでしょう。ラストの旅立ちの哀愁は趣深いものでした。

この映画は、主役は男性の俳優さんたちで、藤原釜足が個性の強い役どころ、御橋公が渋い役を演じていました。そうはいっても、女優さんたち抜きでは話の始まらない成瀬監督。堤真佐子梅園龍子は、「乙女ごころ…」のコンビですね。梅園龍子の独特な声は相変わらずです。出番は少ないですが、清川虹子と三條正子も印象に残りました。清川虹子は映画は34年PCLでデビューとのこと。長年役者をやってきただけあって、大ベテランのようなしっかりした演技という印象を持ちました。

2021.3.22 HCMC自宅にてパソコン鑑賞

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「妻よ薔薇のやうに」 男と女で歩む幸せはいつの世も変わらず

成瀬巳喜男監督の戦前の名作と言われている作品だそうです。1935年の映画で、PCLでは3作目になります。この年のキネ旬1位に輝きました。原作は中野実の戯曲「二人妻」です。

あらすじ
都心の会社に勤める君子(千葉早智子)は、仕事帰りにボーイフレンドの精二(大川平八郎)と出会いますが、改めて明日家に来てもらう事にして、一人帰宅しました。家では短歌の先生をしている母の悦子(伊藤智子)と二人暮らし。父は長年不在のままでした。その夜、母親の兄である新吾(藤原釜足)の家を訪れた君子ですが、話題はやはり父親とのこと。父の俊作(丸山定夫)は、妾を作って、遠くで生活をしており、もう10年以上家に帰っていないのでした。定期的に生活費は送ってくるのですが、手紙などの交流もなくなっていました。

ある日悦子は、夫婦の事情をしらない知人から仲人の依頼を受けます。さらに君子は、精二とのデートの途中で俊作を見かけました。君子は慌てて帰宅し、父が家に帰って来るものと思い込み、食事の用意をして待っていましたが、一向に現れません。君子は俊作の冷たい態度に業を煮やし、仲人の件もあることから、俊作たちの住む長野の山奥を訪ねていきます。俊作はそこで一山当てようと、収入にならない金鉱探しをしており、妾のお雪(英百合子)との間に二人の子供を設け、お雪と娘の二人で、髪結いや縫物で生計を立てているのでした。

君子はお雪を詰り、父を取り返そうと乗り込みましたが、お雪の不安点な身分の中での謙虚な態度や、娘の進学も犠牲にして、俊作に黙って、君子の家に生活費を送っていたことが解ってきます。そして、俊作とお雪と子供たちの円満な家庭に入って見れば、自分はその幸せを壊す者のように思えてきます。君子はなんとか父を説得して、仲人の務めだけでもと東京へ連れ帰ります。君子はそのまま父を取り返そうと考えていましたが、数日の俊作と悦子の生活は、全く気が合わず気づまりな事ばかりでした。結局俊作は長野に戻ることとなり、君子もやはり帰った方がいいと思い始めました。悦子は俊作が帰ることを知って、隠れて泣き出すのですが、その様子を見て、君子は「お母さんの負けだわ」とつぶやくのでした。



妻よ薔薇のやうに

君子の物語かと思って見ていましたが、君子の目を通した、母と妾の二人の女性のお話でした。母は、堅苦しい雰囲気があって、羽目も外さず、はしゃぎもせず、毅然とした態度で生活していますが、歌に関するインスピレーションという表現からも解るように、感受性は豊かで、ずっと夫を愛しているのだと思います。でも、取り乱すこともできず、すべてを抑制してしまうようです。一方、お雪は元芸者という、いろいろな人とうまく接するのが仕事だったということもあってか、人の心や世の中の仕組みを知り抜いており、苦しい生活をしてきた中では、幸福ということがどういう事かも知っている感じです。

そんな二人の間で、俊作はごく単純に居心地がいい方に居ついているというのが、根本的な所だと思いますが、子供も大きく成長し、お雪が家庭をしっかり支えてくれる中で、もう動けない状況なのでしょう。お雪はそれでも不安定な立場を意識してか、幸福を守るのに、自分の子供たちも犠牲にして、あらゆる気遣いをしています。「お母さんの負けだわ」というのは、ストレートな冷たくも感じるような表現だとは思いますが、非常に現実感のある言葉なのでした。男と女が一緒に生きることはどういうことかという、普遍的な物語でした。そのようなストーリーがごく自然に表現されていて素晴らしいと思いました。

君子を演じた千葉早智子は、当時のPCLを牽引する主演女優と思いますが、モダンは雰囲気で、洗練された感じです。オフィスでの姿が、最初の場面だけだったのは残念ですが、キャリアウーマンがはまってます。そして、山村では完全に目立っています。今ほど交流が簡単でないので、差が大きかったものと思います。成瀬巳喜男監督の映画では、旅費の工面というのも、いろいろな映画で話題になるので、そう簡単ではなかったのでしょう。そんな時代でも、いつも変わらぬ人の心が上手く描かれていて、いい作品だと思いました。

2021.3.21 HCMC自宅にてパソコン鑑賞

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「女優と詩人」 PCL創成期が偲ばれる夫婦のコメディ

成瀬巳喜男監督のPCL移籍後第2弾の作品。公開は、乙女ごころ三人姉妹と同月という事で、ほぼ最初の作品群という事かもしれません。1935年の映画で、作品番号は12となっていました。原作は中野実です。

あらすじ
童謡の詩を書くことを生業としている月風(宇留木浩)は、家計を売れっ子女優である妻の千絵子(千葉早智子)に頼っていました。歌が雑誌に掲載されても、礼として菓子折りが来るくらいで金にならなかったのです。そんな中で月風は家事をすべて引き受ける日々でした。千絵子に言いつけられて煙草を買くと、煙草屋の二階にすむ、友人で作家志望の能勢(藤原釜足)が家賃を滞納して、今にも追い出されそうになっていました。

隣の奥さんのお浜(戸田春子)は何かと話好きで、近所の情報にも興味津々なのですが、ある日、隣の空き家に若夫婦が引っ越して来ました。月風は隣家に誘われて酒の相手に行くと、お浜は保険勧誘員の夫(三遊亭金馬)に勧誘に行かせ、二つ返事で契約を取ってきます。お浜夫婦は月風を祝杯をあげ、酔った勢いで千絵子へ不満を一人でぶちまけますが、それは千絵子に聞かれていたのでした。

翌日、千絵子は夫を相手にして、劇の夫婦喧嘩のセリフの練習をしていると、訪ねてきた能勢が、喧嘩と誤解して止めに入ります。能勢は部屋を追い出されて、月風の家に居候を頼みに来たのでした。月風は千絵子に黙って承諾してしまい、それを知った千絵子と本当の夫婦喧嘩を始めてしまいます。しかし、今度は能勢は劇と思い込み、その様子を見物するのでした。その時、若夫婦が心中を計ったと知らせが入り、保険を契約してしまったお浜夫婦の間でも激しい夫婦喧嘩が始まります。そして、喧嘩を通してお互いをより理解した月風と千絵子は前にも増して仲良くなり、能勢の居候も許されたのでした。



女優と詩人

成瀬巳喜男監督の軽いコメディで、ちょっと箸休めという感じでした。劇の夫婦喧嘩の台詞の練習から、本物の夫婦喧嘩に発展しているあたりがとても面白く、ここは主演二人の演技が見どころ。同じような台詞を劇としての喧嘩と本物の喧嘩に演じ分けている形で、見ていて大変楽しい部分でした。テーマは、妻と夫の役割の面白さでしょうか。収入ほぼゼロの夫と、それを愛する高収入の妻という取り合わせ。今でいえば主夫ということですが、最後は妻が家事を分担しています。今だと、一部から批判の声が聞こえてきそうですが、大らかに可愛らしく表現されています。亭主関白を夢見る夫たちの生態も良く表現されていました。

藤原釜足戸田春子が、コメディを支える主役。藤原釜足は、PCL発足と同時に初の映画出演ということで、PCL創業を支えた役者さん。戸田春子は日活のベテラン女優ということですね。夫婦喧嘩を劇を見るように鑑賞する二人がコメディの絵になっていました。千葉早智子も、PCLの最初の作品の主演を演じ、数年間PCLの看板女優として、創業期を支えた女優さんです。彼女の活躍が、今の東宝に繋がっていると考えると、創業時の現場の姿など思い描いて見たくなるものでした。夫婦喧嘩の場面は素晴らしいと思います。

この作品では、行きかう電車の映像があちこちで挟まれていますが、既視感がありました。小津監督の「大人の絵本…」ですね。あれは池上線でしたが、これはどこなのでしょう。この電車の場面や、登場人物の様子など、松竹らしい雰囲気を感じました。成瀬巳喜男監督の肩の凝らない作品でしたが、当時のPCLの創世記の様子がいろいろ偲ばれて面白く見ることができました。その中でも、夫婦のいろいろな形がコミカルに描かれていて、コメディとしても大変楽しめました。

2021.3.20 HCMC自宅にてパソコン鑑賞

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プロフィール

torrent13

Author:torrent13
映画は見たり見なかったりの時を過ごしてきましたが、現状ベトナム在住で、時間があるので、主にネットで見ています。昔はSF映画と、ミニシアターが好きでしたが、その後は西部劇、そして、最近では邦画や古いハリウッド映画などにも見る範囲を広げてきました。

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